まにまに
まにまに  新津孝太

浅野 恭一      作家(僕)
赤井 みやこ     女

    人里離れた山奥の一軒家
    浅野が一人で暮らしている
    ラジオから音楽が流れている
    浅野 戸を開けて入ってくる
    浅野 手にはコーヒーのカップ
    背の低い机の上にコーヒーを置く
    引き出しから用紙とペンを出して机の上に置く

    浅野 少し斜め上を見て、何か頷く
    浅野 何かを書いて、また、ぼうっとする

    戸を叩く音

赤井   浅野先生―
浅野   もうそんな時間か
赤井   浅野先生、いらっしゃいますか
浅野   あー、はいはい

    浅野 戸を開けて赤井を招き入れる

赤井   あ、どうも、こんばんは
浅野   こんばんは
赤井   けっこうすごいところですね
浅野   まぁね
赤井   あ、始めまして、秋元出版の赤井と言います
浅野   はいはい。原稿だよね。聞いてるよ
赤井   そうです。奈津子から言付かりまして
浅野   尾野君はどうしたって
赤井   腰を痛めたってことで
浅野   へぇ
赤井   はい
浅野   君は……、あーなんだっけ、すまない、名前を覚えるのが苦手で
赤井   赤井です
浅野   赤井さんも東京の人?
赤井   いえ、こっちの支社で庶務してます
浅野   そうなの、今まで尾野君以外来たことなかったから新鮮だよ
赤井   奈津子はいとこでして、頼みやすかったんだと思います
浅野   こっちに住んでるんだ
赤井   平田の方で
浅野   結構遠いね
赤井   車で2時間くらいですね
浅野   それでも東京よりは近いか
赤井   はい。それで先日連絡もらって
浅野   災難だね、こんな辺鄙なところまで
赤井   いえいえ。ちょうどこっちに用事もあったので
浅野   そうなのか
赤井   気にしないでください
浅野   今はみんなデータなんだろうけれど
赤井   浅野先生、手書き派なんですね
浅野   うん、そう
赤井   本格って感じですね
浅野   そうでもないよ
赤井   はぁ
浅野   せっかくなんでコーヒーでも飲んでいったら。疲れてるでしょ
赤井   いや、そんな、大丈夫ですよ
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