MOVE
  登場人物    渡辺 演出
          南雲 役者 (父) 
          木村 役者 (母)
          高橋 照明
          川村 役者 (真理子)
          山崎 音響
            
          奥さん
          沢井 役者
          プロンプ(声のみ)

   第一場

    緞帳が上がる。
    舞台中央に真理子、サス。

真理子   朝、目を覚ますといつもの退屈な1日が始まる。学校に行くと友達が他人の話で大
      笑いしている。そして、必ず彼女たちは同じセリフを繰り返す。何か面白いことは
      ない?そんな彼女たちは、付けっぱなしのテレビの前で、何かがやってくるのをい
      つも待っていた。私が、童話作家になりたいと思い始めたのは、最近のことではな
      かった。自分の思い描いた夢の様な世界と、一緒に一生を終えることが出来たなら
      …でも、そんなものになんかなれないってことを、私は、薄々気が付き始めていた
      …。

    暗転。

    ライト全照。
    舞台中央に長いテーブル。
    テーブルには白いシーツ。
    上品なお金持ちの家。
    新聞を呼んでいる父。母は父のカップにコーヒーを注いでる。
    真理子、下手より登場。

真理子   ただいま。
母     お帰りなさい。
父     おかえり。
真理子   お母さん、明日、進路志望の個別面談があるからよろしくね。
母     まぁ、それは。真理子の将来を話し合う大事なことですわね。担任の八橋先生によ
      くご相談しないといけませんわね。ところで八橋先生、どんな物がお好みかしら、
      独身でいらっしゃるから食べ物がよろしいわね。
父     この間、ドイツのおじさんが送ってきたやつがあったな、何だったかな、ドイツ名
      産の…
真理子   ワインだったらダメよ、先生、お酒飲めないんだから。
母     ドイツまんじゅう。
父     そうだ。ドイツまんじゅうだ。
母     そうそう、あんこの代わりにベルリンの壁のかけらが入っている、あのおまんじゅ
      うね。
真理子   食べたの?
母     ええ…おいしかったわ…
父     それから、ロシアに在中している営業の高橋くんから送られてきた…
母     あれ、何でしたかね…
父     チェリノブイリまんじゅう。
母     そうそう、あんこの代わりに…
真理子   もう、いいわよ。学校の教室で面談するんだから、何も持って行かなくてもいいの
      よ。
母     子供が遠慮するもんじゃありません。
真理子   私の進路を相談するだけなんだから、それにね、私はね、もう子供じゃないわ。
父     真理子、お父さんは一言いっておくぞ。童話作家はダメだ。それに、あんなおとぎ
      話ばかり書いているようじゃ、まだまだ子供じゃないか。
真理子   読んだことないくせに。
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