二重螺旋の日記
「二重螺旋の日記」
                作  結城 翼

        これは、物語の迷宮。記憶の海に浮かぶわたしの一欠片。

☆登場人物

ケンヂ・・・
かま猫・・・
恭子・・・・
先生・・・・
眠り女たち・・・

Ⅰ プロローグ 眠り女

        めくるめくようなタンゴ。
        途中でケンヂも少し踊るが再びイスに座る。
        タンゴに重なり、時を刻む音。
        やがて、時計の音のみとなり大きくなり。
        3時をうつ音がする。

ケンヂ:昔、羊が一匹、柵を越えた。ぴょん。続いて、もう一匹羊が柵を越えた。ぴょん。またもう一匹柵を越えた。ぴょん。きがつくと、もう一匹柵を越えていた。ぴょん、ぴょん。

        やがて、ぱたっと日記帳を閉じる

ケンヂ:羊が柵を越えたからって、何になるんでしょうね。・・・眠れないんです。本当に。いや、そうじゃない。それは正確じゃない。多分、ほんのちょっとは寝てると思うんです。ほんのちょっとだけ。眠り女が見えるでしょう。

        トップサスの中、眠り女がイスに座り居眠りをしている。
   
ケンヂ:あいつが出て来ると僕は寝ているんです。多分。長い夜の中の、ほんのちょっとだけ、あいつはでてくる。そうして、笑うんです。

        眠り女が起きて笑う。いやな笑いだ。
   
ケンヂ:あの笑い。何を笑ってるんだろうかとそのたびに思います。何を笑っているんだろう。それを考えると僕は眠れなくなります。眠りの中で眠れなくなり、僕はまたもう一つ向こうの眠りの扉を開けなければならなくなり。

        扉が開く音。
        眠り女は眠りはじめやがて消える。

ケンヂ:僕はまた数えはじめます。羊ではなくて時間を。1秒、2秒、3秒。一分、二分、三分。1時間、2時間、3時間。1日、2日、3日。1年、2年、3年。カタン、タカン、カタン、カタン、カタン、カタン、カタン・・・

        カタン、カタン、と列車がレールを走っていくような音が聞こえる。

ケンヂ:カタン、カタン、カタン、カタン・・気がつけば僕は列車のように時間の中をさかのぼっています。高校3年生、2年生、1年生、中学3年生、2年生、1年生、小学6年生、小学5年・・

        キキーッという音。汽笛。列車が急に止まるような音。
        ブシューっと蒸気を吐く音。
        そうして、どこからか声。

声  :絶対忘れない。絶対殺してやる。絶対覚えている。
ケンヂ:絶対忘れない。絶対殺してやる。絶対覚えている。

        ケンヂ、再び日記帳を開いている。

ケンヂ:・・・小学5年生だろうと思うんです。日記帳。たどたどしい字。稚拙な文章。・・でも。

        日記帳を閉じる。
        立ち上がる。
   
ケンヂ:確かに僕が書いたはずです。なぜ、絶対殺してやるって書いたんでしょう。思い出せません。どうしても。だから、すごく気になって、また眠れなくなり、さらに、眠りの扉を開けなければならなくなるんです。

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