霧の朝鳥の影
「霧の朝、鳥の影」
                作 結城翼
                  


★登場人物

麻衣子・・・
織絵・・・・
野亜・・・・


#プロローグ  五月に風吹きゃ娘が死んで

        五月の強い風が吹く。
        無邪気な子供の笑い声が大きく響く。
        溶明。
        大妙なことに一部欠けている。
        中央に斜めに白いベンチ。
        二人黒い服の女が座っている。葬式へ行く前らしい。
        麻衣子はあやとりをしている。紅い紐。
        織絵は白いスジを取りながら蜜柑を食べている。
        あやとりが完成した。
   
麻衣子:取らないとなんか気持ち悪くない。
織 絵:いいの。美味しいから。

        と食べる。

織 絵:あんたこそのくせどうよ。
麻衣子:どうよって。
織 絵:公衆の面前でやること。
麻衣子:東京タワー。
織 絵:バカみたい。
麻衣子:落ち着くのよ、神経が。ほら。
織 絵:へー。あんたでも、神経が?

        答えず。

麻衣子:あやとりしてると、ほらいろいろな形が生まれるじゃない。・・でも。
織 絵:でも。
麻衣子:全部あらかじめ決められた形なのね。
織 絵:そりゃそうね。
麻衣子:でも、人の思いや気持ちはあらかじめ決められてはいない。
織 絵:当たり前。
麻衣子:だから、あやとりしなきゃいけないのよ。
織 絵:え?
麻衣子:決められてはいないのに、決められたようにあやとりしながら私たち生きてかなきゃいけない。そんな時って、なんかむかつくのよね。織 絵:ふーん。
   
        小さい間。

織 絵:何時からだっけ。
麻衣子:(続けながら)11時。
織 絵:ねえ、普通、もっと遅くない。1時からとか。
麻衣子:葬儀社とか焼き場の都合かなあ。10時からってのも前あった。
織 絵:心の準備ってできないよね。午前中ってのは。
麻衣子:死ぬ時はいつ死ぬかは分からないよ。
織 絵:そりゃ、死んだときはそうだけど。やっぱ、葬式は午後からがいいなあ。こんなに晴れてるのに。
麻衣子:午後雨だって。
織 絵:え、天気予報調べたの。
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