工場の月
  工場の月
 

キャスト

 佐藤
 鈴木



 佐藤、鈴木、揃って登場。二人とも、たくさんの荷物を抱えている。
 佐藤、機械のスイッチを入れる。
 機械が動き出す。

佐藤 「……よし、計画通り。壊れてはいないみたいだな」
鈴木 「電気も通ってるんだな」
佐藤 「ああ。潰れたって言っても、一ヶ月前だからな。建物自体が生きていれば、機械も動くんだよ」
鈴木 「工場、だけにな」

 鈴木、ニヤつく。
 佐藤、首を傾げる。

佐藤 「え、それ、どういう意味?」
鈴木 「まあ、深い意味はねえよ」
佐藤 「いや、浅くてもいいから教えて」
鈴木 「しかし、ここは何の工場だったんだ? ベルトコンベアが一つしかないなんて」
佐藤 「ああ。何でも、焼く前のアンパンのへそを作る工場だったんだって」
鈴木 「……アンパンのへそって、あの真ん中のくぼみのこと?」
佐藤 「うん、それをこう、指で作るんだって」
鈴木 「……それだけ?」
佐藤 「うん。その後は、トラックに積んで、別の工場に運んで、焼く、と」
鈴木 「ここでは焼かないんだ」
佐藤 「うん」
鈴木 「この工場、意味あるか?」
佐藤 「うーん、まあ、でも、潰れたってことはそういうことじゃないか?」
鈴木 「ああ、おしくらまんじゅうみたいな感じか」

 鈴木、機械のスイッチをいったん切る。ベルトコンベアに何か筒状の物を載せる。
 佐藤、眉をひそめる。

佐藤 「え? どういうこと?」
鈴木 「まあ、深い意味はねえよ」
佐藤 「何かそうやって、不用意に人を惑わすような事は言うなよ」
鈴木 「別に不用意に人を惑わすような事は言ってないだろ」
佐藤 「言ってるだろ、さっきから。不用意に人を惑わすような事を」
鈴木 「そもそも不用意に人を惑わすような事を言うという事は不用意か?」
佐藤 「そもそもお前が不用意に人を惑わすような不用意な言葉を不用意に言ったりするから」
鈴木 「いや俺は別にお前をただ不用意に惑わすような事をしたくて不用意に人を惑わすような事を不用意に言ったと」
佐藤 「不用意って何だよ!」
鈴木 「お前が初めに言ったんだろ、不用意に人を惑わすようなことは」
佐藤 「ああ、もういいよ。耳にタコだ」

 佐藤、荷物の中からいろいろと取り出す。

鈴木 「それにしても、よくこんなところ知ってたな」
佐藤 「ああ。俺の知り合いが、ちょっと前までガードマンやってたんだよ」
鈴木 「こんな小さい工場なのに?」
佐藤 「な。すっごい暇だったらしい。自給は安かったみたいだけど」
鈴木 「へー。いいなあ。俺もそういうところで働きたい」
佐藤 「今、バイト何やってんだっけ?」
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