エリザ
『エリザ』

 地下室で暮らす男。
 黒い布を前に語りかける。

A「ああエリザ、私のエリザ。かわいい私のエリザ。美しい私のエリザ。愛おしい私のエリザ。
  誰にも触らせない。誰にも見せない。私のエリザ。私だけのエリザ。さあエリザ、笑っておくれ。私だけに微笑んでおくれ。君さえいれば私は他に何もいらない。君がいればいい。君さえいればいい。
  ここには誰も来ないよ。怖いものは何もないよ。ここには私とエリザだけ。
  さあエリザ、かわいらしい声を聞かせておくれ。私の名前を呼んでおくれ。エリザ、私のエリザ。私のかわいいエリザ。
  エリザ、何か欲しい物はないかい? 君が望むものはなんでも手に入れてあげるよ。君が欲しい物を全て与えよう。エリザ、何が欲しい?かわいらしい洋服かい?美しい宝石かい?――何?ここから出たいだって?それはダメだよ。君はここから出ちゃいけないんだ。外には怖いものがたくさんあるんだよ。君は美しいから、外にいる人間に何をされるかわからない。汚らわしい手で触れられるかもしれない。汚い目で見られるかもしれない。君に何かあったら、私はどうしていいのかわからない。君がいなくなってしまったら、私は生きていけない。外は怖いものがいっぱいなんだ。人間は怖いものばかりなんだ。だからダメだよ。外に出たいなんて言っちゃあ。君は私だけのものなんだから。誰のものでもない、私だけのもの。
  ──どうしてそんなにカナシそうな顔をするんだい?この生活に何の不満があると言うんだい?ここにいれば全て手に入るんだよ。おいしい食事も、綺麗なドレスも、私の愛も。それで十分じゃないか。私が愛している。それだけで十分じゃないか。私がこんなにもあいしている。さあ、笑っておくれ、エリザ。
  ──ダメだ、こんなんじゃダメだ。こんな、こんな地下室に閉じ込めているだけじゃあ。いつ誰にみられるかわからない。いつ誰にさらわれるかわからない。エリザは私だけのものなんだ。エリザは誰にも渡さない。誰にも見せない!見るな!見るな!見るな!お前ら何見てんだよ!誰に許可を取った!誰のものだと思っている!勝手にみるな!さわるな!近づくな!私のエリザだぞ!私だけのエリザだぞ!そうだ、他に誰もいらないんだ。お前らなんかいらないんだ!エリザは私だけを愛していればいいんだよっ!!
  ──ああ、そうだ。あの薬を使おう。そうすればエリザは完全に私だけのものになる。誰の目にも触れなくなる。
  エリザ、聞いておくれ。遠い国の先生がね、ある薬を開発したんだ。世紀の大天才だ。本当にいい物をつくってくれた。そしてね、私も手に入れたんだよ、その薬を。
  (棚からビンを取り出す)
  見てごらん、透明人間の薬だよ。
  これを飲むと、透明人間になるんだよ。ふふふ、すごいだろ。これで誰にも見えなくなる。私だけのエリザになる。誰にも見せない。見せてやるものか!お前ら見るな、見るな、見るな、見るな、見るな────っ!!
  さあエリザ、飲んで。
  (無理やり飲ませる)

  (間)

  はあ、はあ、はあ……。エリザ?エリザどこだい?どこに行った?エリザ。エリザーっ!!
  ──ああ、そこにいたのか。ははは、本当に見えない。透明だ。エリザ、触らせておくれ。
  (頭からゆっくりと撫でていき、人間の形をなぞる)
  ここにいるんだね、エリザ。愛しているよ。これで本当に私だけのエリザになった。誰も見えない。誰の目にも映らない。私だけのエリザ。愛しているよ」

  暗転。

  ぎいと重たい金属の扉が開く音。

  明転。

  男が二人地下室へ。
  一人は医者。一人は男の息子。

B「……ひどい臭いだな。何かが腐った臭いがする」

  B、周囲を見渡す。A、黒い布の手前を見つめる。

B「(少し気分が悪くなりながら)これは一体、何の臭いなんですか?」
A「これは人間の死体の臭いです」
B「え?」
A「かわいそうに、ここに閉じ込められていた女性が死んで腐ってしまったんです」
B「そんな……」
声「エリザ、私のエリザ、私の愛しいエリザ」

  声に驚くB。きょろきょろとあたりを見回す。が、何も見つけられない。

声「ここには誰も来ないよ。怖いものは何もないよ。ここには私とエリザだけ」
B「誰だ?誰かいるのか?」
声「エリザ、何か欲しいものはないかい?」
B「どこにいる!出て来い!」
A「そこにいますよ」
B「!?」
A「ほら、目の前にいるじゃないですか。彼が僕の父です」
B「……誰もいないじゃないか」
A「見えないだけです。でもいるんです、そこに」
B「まさか……」
A「そう、そのまさかです。でもいるんです、そこに」
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