人助け
短編不条理劇集 その1
『人助け』

薄暗い舞台。
真ん中に、カート式のボストンバッグに入ったしたいが一つ、
女1がを懐中電灯とスコップを持って登場、
舞台中央付近で立ち止まり、おそるおそる周囲を確認する。
そして、やおらスコップで地面を掘り始める。
と、そこへ突然頭にバンド式の伝統を頭に巻いた男1が登場。
驚く女1。

男1 こんばんは。
女1 あ、こんばんは。
男1 ご精が出ますね、
女1 はい。あ、いえ、あの、すみません、勝手に…。あの、すぐに元に戻しますから。
男1 大丈夫ですよ。私、ここの管理人じゃありませんから。
女1 あ、そうでしたか。
男1 何かお困りですか。
女1 はい、あの、捜し物です。
男1 捜し物?大切なものですか?
女1 いえ、その、昼間に財布を落としまして。さっきから探してるんですけど、見あたらないもので、もしかしたら埋まっちゃったんじゃないかなーと思いまして。
男1 成る程。それはお困りですね。もしよかったらお手伝いしましょうか。
女1 いえ、結構です。見ず知らずの方にそんなことまでしていただいては…
男1 いえ、お気になさららず。私は、困っている人を見たら助けずにはいられないんですよ。
女1 今時珍しい方ですね。でも、本当に結構ですから。
男1 申し遅れました。私、『幸福のアーレフ』の者です。決して怪しい者じゃありませんので。
女1 私、宗教は結構ですので。
男1 ご心配なく。勧誘ではありません。私達は困っている人に手をさしのべることで、その方も、私も幸福になることができる、そんな活動を行っております。
女1 深夜にご苦労様です。
男1 お手伝いしますよ。あいにく、道具がないので、あまりお役に立てないかも知れませんが、案外浅いところに埋まっているかも知れませんからね。
女1 あの、本当に大丈夫ですから。
男1 安心して下さい。昨日も同じような方をお助けしたばかりですから。
女1 昨日も?
男1 ときに、そのお鞄の中には何が入っているんですか?
女1 えっ?
男1 いや、大切なものでしたら、見張っていて差し上げようかと思いまして。
女1 いえ、本当に結構ですから、どうぞもう…
男1 私ね、どなた様かを幸せにしてから道場に帰らないと、天罰が下るんですよ。
女1 はあ。
男1 今日はこんな時間まで、まだどなたのことも幸せにしていない。このままでは私、地獄行きなんです。お願いします、どうか、助けると思って助けさせて下さい!

男1の携帯が鳴る。

男1 すみません、ちょっとお待ち下さい。

男1 あ、私です。ええ、大丈夫ですよ。

女1、こっそり逃げだそうとする。
しかし、男1が振り返ったので、「だるまさんが転んだ」状態になる。

男1 今、交渉中なんで。うん、たぶんあと5分もすれば。じゃ、後で。

男1、電話を切る。
女1、仕方なく元の場所に戻る。

男1 すみませんでした。
女1 あ!あの、そういうことでしたらお願いがあります。
男1 あなたが幸せになることでしたら、何でもしますよ。
女1 私、すぐ戻ってきますから、この荷物、見ていて下さいませんか?
男1 ええ、お安いご用です。1時間でも2時間でもお待ちしていますから。
女1 いえ、そんなにはかからないと思います。あと、
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