モニュメント
短編不条理劇集 その2
『モニュメント』

舞台にはベンチが一つ。
その前の床に、サラリーマン風の男の死体が横たわっている。
ざわざわという人の声。
鳴り響く発車メロディ。そして、アナウンス。
泥酔した別のサラリーマン風の男が千鳥足で入ってくる。
死体に話しかける。

男 悪りぃ、悪りぃ、トイレ混んでてさ、電車行っちゃった?

死体は何も答えない。

男 あれ?おい、鈴木!しかとすんなよ。何か言えよ、馬鹿野郎。おい、何寝てんだよ!

男1、死体を揺する。

男 あれ、死んじゃったのか?頼むよ、おい。

男、ベンチへどっかりと座り込む。

男 まったく、今時の若い者は、自分の死に場所も分かってねえんだな。これだから困るんだよ。どういう教育受けてきたんだよ、まったく。社会に出たらな、どこで死ぬかぐらい決めておけっつうの!

駅員が登場。
死体に向かって、

駅員 もしもし、お客さん、終電終わりましたよ。…何だ、死んでるのか。
男 こいつね、何をやらせてもダメな奴だったんだよ。だからこんな所で死にやがって、馬鹿が。
駅員 あの、お知り合いの方ですか?
男 うちの新人だよ。まったく、口ばっかりで、全然使えねえの。
駅員 お亡くなりになってますよね。
男 お亡くなりなんて上等なもんじゃねえけどな。
駅員 この死体、いただいてもいいですかね。
男 おれは構わねえけど。
駅員 よかった。実は、「酔っぱらい迷惑防止」のモニュメントを駅前に建てようって計画があって、酔ったお客様の死体を探していたんですよ。なかなか皆さん亡くなるところまでいかなくて。
男 ちょうどよかったじゃねえか、持ってけよ。
駅員 あ、でも、ご遺族の方にお話ししておかないと。まあ、正直、形式なんですけど。
男 大丈夫だよ、俺がうまく話しつけとくから。
駅員 助かります。じゃ、いただいていきます。
男 (死体に向かって)よかったな、鈴木。お前もやっと人様の役に立ったぞ。

駅員、死体を担ぎ上げる。

駅員 あ、終電終わってますんで。

駅員、死体を担いで去る。

男 何だ、電車終わっちゃったのか。まったく、馬鹿鈴木、お前のせいだぞ、畜生。…タクシー捕まえなきゃ。馬鹿野郎、まったく…

男、ぶつぶつ言いながらベンチに横になる。
暫くすると、男はベンチから落ちて、動かなくなる。
暗転。


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