HE-RO 〜Live Version〜
【第1場】

      緞帳が下りたままの舞台。
      客電が落ち、しばしの暗転の後、センターにスポット。
      そこには、一人の男・小山内零男の姿。
      携帯電話を持ち、そわそわしている様子。
      大きく深呼吸し、携帯電話のボタンを押そうとするが、なかなか押せない。

零男 「…あ〜、この通話のボタンが押せない。…なんて、言おう。『もしもし、好きです!』…いきなり過ぎ! まず、名を名乗れよ! 誰だよ、お前って突っ込みが来るよな。『もしもし、小山内だけど』…慣れ慣れしい? 『もしもし、小山内と申します』…こっちだな。そしたら、向こうは『あれ? どうしたの?』って聞いてくるはず。そしたら…まずは世間話からだな。『今日のめざましテレビの占い見た?』…オレは小学生か! テレビの話題しかないのかよ! 違う! 『細木数子の占い料って幾らなのかな?』…高いよ! 聞かなくてもわかる! ていうか、占いばっかだな、オレ。『アメリカ大統領○○○のいる××党の政治方針についてどう思う?』…カチコチに固い! …でも、ちょっと待てよ。名前を名乗って、『あれ? どうしたの?』って聞いて来るかな? 『え、誰?』って言われたら…凹むな〜。そもそも、オレ、誰に喋ってんだ? もし、こんなとこ、何十人の人に見られてたら、ただの怪しい人物だよな、オレ。あ〜、もう考えるだけ頭が混乱してくる。こういうのは勢いだ」

      零男、ボタンを押す。

零男 「あ、押しちゃった! (コールサインを聞き)鳴ってる鳴ってる…。あ、もしもしもし…あ! 『もし』が一個多い! わたくし、小山内零男と申すでござる。この度は…(留守電に気づき)あ! 留守電じゃん!」

      暗転、音楽。


【第2場】

      緞帳が上がると、抽象的な舞台が。
      下手奥には二階部分、上手には段差が二段階になっており、一番上は、下手奥の二階部分へと繋がっている。
      ハケ口は、下手と上手、二階部分の下手と上手、そして、二階部分の下部に二箇所ある。

下手から、一人の男・ビーエムが場内に駆け込んで来る。

ビーエム「大変だー! 大変だー!」

      右往左往するビーエム。
      上手上から、王の側近・シーが出て来る。

シー 「ビーエム! うるさいぞ! ここをどこだと思っておる」
ビーエム「シー殿。大変です!」
シー 「もうちょっと声を落とせ。いきなり大声あげたから、ビックリしたじゃないか!」
ビーエム「失礼しました。それより、大変なんです!」
シー 「わかっておる。開演時間が遅れたこと、ホントに申し訳ないと思っておる。(客に頭を下げ)ホント、ごめんなさい! ほら、ビーエムも謝れ」
ビーエム「(客に頭を下げ)すいませんでした」
シー 「私の方から後で制作にキツク言っておく」
ビーエム「シー殿。確かにそれも大変な事ですが、それではありません!」
シー 「何事だ?」
ビーエム「…あの…」
シー 「なんだ? 早く言え」
ビーエム「(聞き取れない早口で)姫が何者かに誘拐されました」
シー 「早い早い。何言ってんのか全然わかんない。私が言ってるのは話すスピードじゃなく、間を取るなと言ってるんだ」
ビーエム「失礼しました!」
シー 「一体、何が大変なんだ?」
ビーエム「姫が…アイ様が何者かに誘拐されました!」
シー 「…マジで?」
ビーエム「多分、マジです。声明文も送られてきましたので」
シー 「見せろ!」
ビーエム「は!」

      ビーエム、声明文の封筒をシーに向かって投げる。
      だが、届かない。
      ビーエム、封筒を取りに行き、再び、元の位置に戻り、また投げる。だが、また届かない。
      今度は封筒を丸めて、投げる。が、届かない。

ビーエム「(泣きそうに)ダメです。届きません!」
シー 「持って来いよ! 何、横着してんだよ。しかも大事な声明文を丸めるか、普通?」
ビーエム「申し訳ありません!」

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