宴もたけなわ
「宴もたけなわ」 作・椙田佳生

<登場人物>
 稲荷山…人間。若くて多忙なOL。
 恵比寿…八百万神役所(やおよろずしんやくしょ)勝負運課の課長。笑顔の神。
 吉祥寺…勝負運課の係長。ひょうひょうとした神。
 弁天…勝負運課のおばさん的な神。
 福禄寿…勝負運課の長老的な神。
 天野…勝負運課の踊り好きな神。
 菅原…勝負運課の知的な神。資料を基に審議する。
 布袋…天命課の神。豪胆な物腰。
 弥勒…天命課の神。冷徹な物腰。
 給仕神…注文に応じてお神酒を運んでくる神。


  薄暗い光にぼんやりと浮かぶ舞台。
  どことなく神秘的な雰囲気をかもし出す空間。
  舞台の奥には小さな祭壇のようなものがある。
  その祭壇には鏡、勾玉、剣が祀られている。
  唐突に響き渡る交通事故のようなクラッシュ音。
  救急車のサイレン、人々の悲鳴…、阿鼻叫喚が遠くで響いている。
  一人の女性(稲荷山)がキョロキョロしながら登場。
  まるで、見知らぬ世界で迷子になったような様子である。
  そんな彼女の背後に次々に姿を見せる神々の影。
  恵比寿、吉祥寺、天野、菅原、弁天、福禄寿の総勢6名。
  やがて舞台に強い光が射し、神々の舞が披露される。

恵比寿 さあ、宴の始まりです!
吉祥寺 さあさあ、どうぞこちらへ!
稲荷山 え?私?
恵比寿 さあさあさあ、遠慮しないで!
稲荷山 ちょ、ちょっと待って…。
吉祥寺 さあさあさあさあ!

  強引に宴と称される輪に加えられてしまう稲荷山。
  お神酒が振舞われ、まるでお花見のような雰囲気になる。
  神々は飲めや歌えや踊れやの大騒ぎとなる。

恵比寿 どうしました?浮かない顔をしていますね。
稲荷山 何なのよ、これ!っていうか、ここはどこなの?私はこれから会社に行かないといけないのよ!
恵比寿 これは失礼いたしました。あなた様はめでたく陪神員に選ばれたのです。
稲荷山 陪審員?
恵比寿 はい。陪神員。ご存知ですか?
稲荷山 それって、アメリカの法廷で民間人が判決を決める…日本で言うところの裁判員のことよね?
恵比寿 まあ、制度的には似かよっていますが…。
稲荷山 冗談でしょ?こんなところで?
恵比寿 恐らく、あなた様が思い浮かべたものとは陪審員の「審」の文字が異なりまして、私共を指し示す「神」、つまり神という文字になります。
稲荷山 神という文字で陪神員…って、あなたたち、神様?
恵比寿 ええ。あ。申し遅れました、私、八百万神役所勝負運課の課長で恵比寿と申します。
吉祥寺 同じく勝負運課係長の吉祥寺です。
天 野 天野です。
菅 原 菅原です。
弁 天 弁天です。
福禄寿 福禄寿です。
恵比寿 そんなわけですので、どうぞよろしくお願いいたします。
神たち お願いします。
稲荷山 ちょっと、ふざけないでよ!神様だなんて、そんなの…現実的にありえないわ!
恵比寿 ありえないとは、ひどい言われようですね…。あなた様も神頼みの一度や二度、なさったことがおありでしょう?
稲荷山 それとこれとは話が別よ!
恵比寿 そうでしょうか?
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