鬼涙塚
〜千年の命より、今この瞬間の愛を〜
鬼涙塚（きるいづか）
〜千年の命より、今この瞬間(とき)の愛を〜
【登場人物】
花田 剛（鬼追山（おにおいやま）に住む謎の青年）
権藤結衣（２４歳 男に裏切られ自殺未遂をした。剛に惹かれる。）
権藤史郎（５０歳 結衣の父。鬼追市立鬼退治博物館建設準備室長）
渡辺夏子（３８歳 史郎の部下）
坂田金一（２９歳 史郎の部下）
村崎町子（５４歳 鬼退治博物館の建設に反対する女性）
琴音 （鬼娘）
プロローグ
（暗転の舞台にスポット。史郎が立っている。）
史郎 「私、鬼追市役所鬼退治博物館建設準備室長の権藤史郎と申します。
本日の鬼追市定例公聴会では、市民の皆様に、現在計画中の鬼追山鬼退
治博物館について、私からご説明をさせていただきます。
その前に、鬼追山に伝わる鬼退治伝説をご存知の方、いらっしゃいま
すでしょうか。ご存知の方は手を挙げていただけますか。」
（客席を見渡す。）
史郎 「ああ、やはりほとんどいらっしゃいませんねえ……。
実はですね、私たちの鬼追山には、岡山の桃太郎伝説、京都の大江山
伝説と並ぶ、三大鬼退治伝説とも言うべき伝説が伝わるのです。でも、
桃太郎や大江山の鬼退治は御伽噺になって子供たちでもよく知っている
というのに、この鬼追山の伝説は、古い文献にわずかに残るのみでほと
んど知られていないのです。でも皆さん、伝説というのは、この土地に
住んできた我々の先人が子々孫々言い伝えてきたものです。言うなれば、
この鬼追市に住む者のアイデンティティなのです。この伝説を将来にわ
たって伝え続けることが、今の鬼追市に生きる我々の使命なのです。
この使命を果たすべく計画しているのが鬼退治博物館というわけです。」
史郎 「それでは、ご存知ない方のために鬼退治伝説についてお話しましょう。
時は今からちょうど千年前。平安時代の後半、藤原道長、頼通による摂
関政治が行われていた頃、紫式部によって源氏物語が書かれた頃でもあ
りますね。京の都から遠く離れたこの鬼追山には、たくさんの鬼が棲み
つき、人里に下りてきては悪逆非道の行いをしていたのです。
その中でも、特に邪悪な鬼と言えば、まず頭領の鬼だった常盤童子」
（他のキャストが鬼の面を着けて常盤童子となって登場）
史郎 「人間の娘をさらってきては、その肉を食っていたといいます。」
（常盤童子がパフォーマンス）
史郎 「それから鬼追山随一の暴れん坊と言われる花若童子」
（また他のキャストが鬼の面を着けて花若童子となって登場）
史郎 「伝説ではこの花若童子だけは、鬼退治の時にも人間たちを相手に暴れ回
って、とうとう一人どこかへ逃げてしまったということです。」
（花若童子がパフォーマンス）
史郎 「さらに、鬼娘の琴音。町へ降りてきては人間の子供を捕まえ、その生き
血を啜ったとか」
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