フィクション


(小さな事務室。
雑然としたデスクがひとつ。
その向かいに何も置かれていないデスクがひとつ。
部屋の奥には「撮影」というプレートが掲げられた衝立。
デスクの向こうには大きな窓があるが、今はブラインドが閉じられている。
朝の光がわずかに差し込み、鳥の声も聞こえる。
部屋の隅には小さなテレビが置かれている。)
(遠くから足音が聞こえてくる。
鍵を開ける音がして、「タカハシ」が入ってくる。背の高い男。
雑然としたデスクの方に向かい、目をこすりながらパソコンのスイッチを入れる。
鍵を適当な場所に置き、テレビを点ける。
当たり障りのないBGMが聞こえてくる。)

女性アナウンサーの声「続きまして、昨日の戦地の様子です。301部隊が滞在しているD地区周辺は爽やかな秋晴れとなり、兵士とその家族が紅葉を楽しむ場面も見られました。(砲弾や戦車の音が小さく聞こえてくる)前線では順調に制圧が進み、早ければ今週末にもF地区のほぼ全域を奪還できる見通しです。昨日の戦地での死傷者はゼロでした。続きまして、ニホンのニュースです」

(タカハシ、テレビを消す。
快活な足音が聞こえてくる。
タカハシがゆっくり伸びをする。
同時に、「オクダ・リエ」が事務室に入ってくる。髪の短い女。)

オクダ「おはようございまーす」
タカハシ「あ、おはよう……ございます」

(オクダを驚いた顔で見つめるタカハシ。
オクダはそれに気づかず、窓のブラインドを開けに行く。
よく晴れた空と初夏の光が部屋いっぱいに広がる。)

タカハシ「ほー」
オクダ「今日、暑くなりそうですねー」
タカハシ「いや、そっちじゃなくて」
オクダ「ん?」
タカハシ「ばっさりいきましたね」
オクダ「ああ、髪?」
タカハシ「もちろん」
オクダ「はい、もう、ばっさり。中学生のとき以来ですよ、こんな短くしたの」
タカハシ「……いいですねえ」
オクダ「そうですか?」
タカハシ「似合ってます」
オクダ「あはは。ありがとうございます」

(オクダ、自分のデスクに座り、パソコンのスイッチを入れる。
オクダ、カバンから一枚の紙を取り出してデスクの上に置く。
そうしたオクダの一挙手一投足を見ているタカハシ。)

オクダ「ちょっとトイレ行ってきます」
タカハシ「あ、はい」

(オクダ、去る。
足音が遠ざかる。
タカハシ、おもむろに立ち上がり、オクダのデスクの上の書類を手に取る。)

タカハシ「……」

(窓の外から蝉の声がじわじわ高まってくる。
オクダが戻ってくる足音。
書類を元の位置に戻し、窓に向かうタカハシ。
窓を静かに開ける。
柔らかい風が吹き込んでくる。
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