ネッシー
「 ネッシー 」
作:鎮西弓美


鈴木美津夫(みっちゃん):真喜子のおじ。36歳。工務店勤務。真喜子とは年の離れた兄弟のような、息の合う関係。
鈴木真喜子(まあこ)  :美津夫のめい。22歳。会社員。美津夫の兄の一人娘。明朗で気遣いのできる性格。4年前高校卒業時に両親が離婚。なぜか父方の鈴木家に居候。研と付き合って1年半。
鈴木美香子(たまちゃん):美津夫の妹。30歳前後。美津夫の年の離れた妹。恐い看護師だった。現在鈴木家の「秘密の」存在。神出鬼没。
佐々木研 (みがくくん) :24歳。真喜子の彼氏。市職員。何事にも熱心になれないが器用な性格。たまことは高校時代の先輩と後輩で、「こいつとは合わない」仲だったが、社会人になって再会。そろそろ家族に挨拶に来てみたが・・・


第1場。5月の某日。

 日曜日のお昼時。雪国ではようやくコートがいらなくなった季節、暖かな日差しが照る。
 古い木造家屋の一室。縁側があり、庭の一部へと続く。庭からは居間が一望出来る開放的な空間。
 座卓に座った、美津夫。新聞を広げている。

美津夫「おお、凄いぞ」

 奥から声がする。真喜子「なーにー」

美津夫「○○市の職員、汚職だってさ」

 奥から、真喜子「ふーん」

美津夫「○○市の市長は、無投票再選だってさ!」

 奥から、真喜子「ふーん、それでー?」と気のない返事。

美津夫「寿司まだかなあ!」

 奥から、「さっき頼んだばっかりじゃん」と笑いながら、真喜子が現れる。

真喜子「みっちゃん、焦りすぎ」
美津夫「んー」
真喜子「大したことじゃないから、ほんと」
美津夫「いや、でもさあ・・・格好、これで大丈夫?」
真喜子「大丈夫、大丈夫。オトコマエ、オトコマエ」
美津夫「やっぱり、ウナギの方がよかった?」
真喜子「寿司で十分だよ」
美津夫「でもさあ。やっぱ『並』って・・・みっともないんじゃない?」
真喜子「(笑って)市職員って言ったってね。ただの、読書オタクだから。みっちゃんに比べれば、がきだから。寿司ってだけで喜ぶよ、あいつ。気にしない、気にしない」
美津夫「ううーん」
真喜子「ホント、普通にしててくれれば良いから」
美津夫「ううーん」
真喜子「あたしたち、昼ご飯たべたら駅前に出ちゃうよ」
美津夫「えっ、そうなの」
真喜子「そうだよ」
美津夫「何しに行くの」
真喜子「何って。買い物とか、色々だよ」
美津夫「色々かあ」
真喜子「そうそう」
美津夫「色々ねえ・・・」
真喜子「ちょっと、やらしい!何なのその視線!」
美津夫「大きくなったなあ、って思ってさあ。家に来たときは、まだこーんなに小っちゃくて」
真喜子「みっちゃん、それ勘違い。背は伸びきってたから。18歳だよ?ちゃんと思い出せ!」
美津夫「大きくなったよ。あの頃は顔がパンパンだったのに、やせたしなあ。日焼けもしなくなって、化粧もして・・・女の子っぽくなったよう」
真喜子「ちょっと腹立つんですけど」
美津夫「えー・・・」

 と、言いながら幸せそうな美津夫。ふと、心配顔になって。
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