ツタワレ
『ツタワレ』
登場人物
A(男)
B(男)
C(男)
D(女)
E(女)
A「俺はこの街に住んでいる。小さな頃から特に引っ越しとかをすることもなくこの街に18年。この街は、そしてこの場所はメインストリートでこんなにもたくさんの人であふれかえっているのに、喧騒なんてなくてとても静か。静か?ではないけれど、音声的には確かにそうではないけれど、こう、いつでも落ち着いている。治安の悪いところでよく起こる通行人同士の言い争いや口喧嘩だってめったに聞かない。老人が多いとかそういう集落ってわけじゃないけど、なんかこう、街がおじいちゃんみたい。みんな心が穏やかだからだろうか。みんな、心に余裕をもって生きているからだろうか。街の心の余裕はこんなにも俺に心地よかったのをしっかりとではなかったけれど時折実感していた。俺はそんなこの街が大好きだった。俺の人生はこの街で始まってこの街で終わるのだろう。これがきっと俺に与えられた幸運なのだろう。俺はさらに幸運なことに友人にも恵まれた」
B「A」
A「ん?」
B「放課後カラオケ行こー」
A「おーう」
C「A」
A「んー?」
C「スイッチ買ったんだって?」
A「あーうん」
B「ミセスの新曲聞いた?」
C「マリカ持ってる?」
B「動画上がってたって、昨日」
C「絶対面白いよな」
B「カラオケ載ったら絶対歌う」
C「今日やりに行ってもいい?」
A「浅く広く、多くの友人と、という俺の人間関係を否定はさせたくないし、俺のことを友人と思ってくれているようで、はたから見たら滑稽に見えるようなこの会話の応酬も、俺にとっては日常」
E「Aくーん?」
A「そして俺は、勝ち組でもあった。Eちゃーん?」(いちゃいちゃ開始)
E「もー遅い」
A「ごめんごめんって」
E「好きだよーAくーん」
A「俺も好きだよーEちゃーん」
E「えー私のほうが好きだよー?」
A「俺のほうが好きだし」
E「じゃあ、どのくらい好きー?」
A「こーんくらい」
BCD「「いちゃいちゃいちゃいちゃ・・・」」
A「彼女とは付き合って一ヶ月と24日。彼女が俺の初めての彼女ってわけじゃなかったけど、この初々しさはひとつ運命であったりなんて、きっとお互いに感じているだろう。俺は彼女のことを信じ、彼女もまた」
E「じゃあまたねー」
A「えー離れたくないよー」
E「私もー」
A「うーん、またねー」
E「またねー」
A「またねー」
E「またねー」
A「これが日常。誰になんと言われようとも俺の日常はこれが日常。何の変哲もなくて何のとりえもない俺の日常だったけど、それでも幸せだと思った。友にも恋人にも恵まれ、別にこれまでの人生を送りながら何かのたびに幸せを感じていたわけとかではなかったけれど、それでも今思えばすごく幸せだったんだと思う・・・そんな陽気に浮かれていたからだろうか。浮かれすぎていたからだろうか」
ブレーキ音
A「すぐ救急車で運ばれた。奇跡的に軽傷。俺は一瞬気を失ってしまったのだろうか、事故にあってからここにたどり着くまでの記憶は全くなくて。目の前が突然まぶしくなったかと思えば、気が付いたら大学病院のベッドの上で。でも確かにちゃんとまだ生きていた。よかった。もう少し俺の人生は平穏に続けてもいいと、神様に言ってもらえたみたいだ。その日はもう夜遅かったから病室のベッドですぐに眠りについた。事故にあったあとだから万が一のこととかそういう不安は心にあったけど、この日はなんかそんな不安も眠気が覆いかぶさって隠してしまった」
B『結論何もなかったといえば何もなかったのだけれど何かが起こったといえば何かが起こりすぎていた』
E『あの日あの時間帯にあの場所に存在することを選んだ自分を後悔し』
B『あの日車を運転していたあの人間を恨み』
E『負の感情を重ねたところでそれは覆いかぶさることもなくむなしく散らかっていった』
B『俺の上に積もることもなく俺の身体をかすめていくだけで』
E『本当にむなしく』
B『次の朝』
D「Aさん」
A「・・・」
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