橋                     作 辰巳幸夫

登場人物




女が橋の上で川を眺めている。
そこへ男が現れ声をかける。

男:こんにちは、どうかしましたか?
女:いや、べつに。
男:さむいですね。
女:そうだな。
男:何か落し物ですか?
女:いいや。
男:そうですか。
女:何か用か?
男:いえ、私も川を眺めに来たんですよ。
女:そうか。
男:そうなんです。

しばらく二人沈黙。

女:何かあったのか?
男:いいえ…。
女:言いたくなければ良いけどさっ。
男:うん、そうだな、仕事で上手くいかなくて。
女:そうか。
男:そうなんです。
女:上司に怒られたか?
男:そうなんです。
女:しかも、その上司、女だったりして?
男:…!、そうなんです。
女:そうか。
男:…しかも、年下なんです。
女:そうか。
男:そうなんです。

しばらく二人沈黙。

男:あなたも何かあったんですか?
女:わたしか?…私はいいよ。
男:そんなぁ、私だけ語っておいてズルイですよ。
女:そうか、仕方ない。実は、男と上手く行ってなくてさ。
男:そうですか。
女:これでいいか。
男:まぁ、言いたくなければ…。
女:じゃ、もうチョット話すか、十二月だって言うのに仕事ばっかで全然、会ってくれないんだ。
男:そうですか。十二月といえばクリスマスですよね。
女: そうだろ。なのにクリスマスは「仕事で忙しいからムリ。」だって。
男:こんな可愛い彼女をほっといて、ムリはないですよね。
女:なっ、そうだよな。そう思うだろ。
男:私だったら仕事を残しても、クリスマスは彼女と過ごしますよ。
女:普通そうだよな、こんな可愛い女ほっとかないよな。
男:自分で言いますか。
女:自分で言って悪いか?
男:いいえ、いいですよ。あっ、こんなだからいけないのかな?
女:何が?
男:仕事ですよ、仕事。
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