恋する各駅停車
「恋する各駅停車」 作 ササキタツオ

《登場人物》
遠山 花音(16)高校1年生
田端 俊太(16)高校1年生


■第一場:通学電車
   駅のホーム。
   花音が文庫本を片手に立っている。

花音  朝早く駅に着いて、そこで大体30分くらい本を読んで過ごす。それが私の日課です。急行・各駅・準急・特急・各駅・急行……。何本も、何本も電車をやり過ごします。そうやっているうちに《彼》がやってくるんです。彼とは、中学の時の同級生、田端君です……私、彼の事が気になっているんです……。

   やってくる俊太。
   本を片手に花音から少し離れたとこ ろで電車を待つ。

   花音が俊太を気にしながら、語りを続ける。

花音  私と田端君は、同級生だったという関係で。中学時代は一言も話したことがありません。ですが、高校生になってから、駅で顔を合わせたのがきっかけで。なんとなく私が一方的に田端君を待って、一緒の電車、各駅停車に乗って、通学する、というのが日課になりつつありました。

   花音、身だしなみを整えて。

花音  田端君! おはよ! 

   俊太、花音に気づき、会釈する。

俊太  遠山さん。おはよう。  

   花音も会釈する。
   だが、二人の会話はそれで終わる。
   花音と俊太、それぞれ本を読んでいる。

   電車がやってくる。
   電車に乗る花音と俊太。

花音  私と田端君の日常は、お互いになんとなく、本を読んで、一緒に通学する……今日もそんな感じ。

花音  別の高校に通う田端君は途中下車してしまうんですけど。でも、一緒に並んで本を読む時間が何より嬉しいんです。

   俊太、下車する。

俊太  遠山さん。それじゃ。

花音  そ、それじゃ! またね!

   俊太、去る。

   花音も電車を降りる。
   そして、歩き回りながら。

花音  毎朝、どうしようもなくこんな感じで、学校に着くころにはもうクタクタでして。授業はぼんやり、グダグダ過ごすみたいになってて。あ、そもそも、田端君は、私なんかよりずーっと頭のいいところに通っているので、私なんか到底釣り合わないだろうなーって思ったりするのも日常茶飯事でして……。ああ、今日もうまく話せなかったし……。大事なところで噛んじゃうし。明日、どんな顔して会えばいいんだろう!? それが本当にわからないんです。
 
   花音、頭を抱える。
                                     

■第二場:接近
   花音が本を読んでいる。

花音  急行・各駅・準急・特急・各駅・急行……今日も駅で田端君を待ちます。電車が通過していく。ガタンゴトン。こんな毎日を私は一体いつまで繰り返すのだろう……。ガタンゴトン。そんなことを思っていたら、田端君はいつもより、30分も遅れてやってきました。私、遅刻確定だ。

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