チイサナソラ(2007)
Les Semirables
チイサナソラ 〜Les Semirables〜
<登場人物>
蝉1(うるさいロックンローラー)
蝉2(ニヒルなインテリ気取り)
蝉3(引きこもりのラッパー)
声1(国営放送風ラジオ)
声2(民間放送風ラジオ)
夜明けを待つ大地のように、ひっそりとした闇。
まるで朝焼けのように、舞台にうっすらと差し込む光。
舞台には乱雑に重ね着をした人間が死んだように横たわっている。
遠くでしきりに鳴いている蝉の声。
どこかのラジオが天気予報を告げている声が聞こえる。
声1 おはようございます。それでは、8月15日水曜日、全国の天気です。勢力を強めた太平洋高気圧に覆われ、全国的に強い日差しと共に気温が上昇。各地で真夏並みの暑さとなるでしょう。外出の際は日焼けだけでなく、熱中症にもご注意ください。また、主に山沿いの地域では大気の状態が不安定になっていますので、突然の雷雨にも警戒が必要です。続いて各地の天気、まずは九州沖縄地方から……。
徐々に遠ざかっていくラジオの声。
それと入れ替わるように舞台に差す光が強くなる。
M1
差し込む光を察知し、かすかに生命の反応を示す人間たち。
曲のリズムに合わせて徐々に覚醒し、動き始める人間たち。
それぞれがゆったりとダンスを踊るように、重ね着した衣類を脱ぎ捨てていく。
やがて軽装になった彼らは自分自身の世界で自由にくつろぐ。
そのころには舞台は完全に昼間の明るさになっている。
蝉1 暑い!暑いなぁ!やっと夏が来たって感じだよ。何で今年の夏はこんなにモタモタしてやがったんだ?もう待ちくたびれちまったぜ!なあ、どう思う?
蝉2、蝉3はまだ寝起きのような感じで反応が鈍い。
蝉1 おいおい!お前ら、聞いてるのか?
蝉2 え?なに?
蝉1 だから、何で今年はこんなに夏が来るのが遅かったんだって訊いてるんだよ。
蝉2 そんなことわかるわけないだろ。
蝉1 お前は?
蝉3 さあ…。
蝉1 なんだよ、わかんねえのか?頼りにならねえやつらだな!
蝉2 自分だってそうじゃないか。
蝉3 でも、待っていた甲斐があったよね。ものすごくいい日差しだよ。
蝉2 ああ。確かにそうみたいだ。
蝉1 よおし、これで思いっきり騒げるぜ!少し発声練習しないとな。あーあー。ア・エ・イ・ウ・エ・オ・ア・オ!
蝉2 うるさいなあ。そんなに張り切らなくてもいいじゃないか。
蝉1 何言ってんだよ。モタモタしていると夏が終わっちゃうぜ。カ・ケ・キ・ク・ケ・コ・カ・コ!
蝉3 サ・セ・シ・ス・セ・ソ・サ・ソ!
蝉1 お?いいねえ!その調子だぜ!タ・テ・チ・ツ…
二人の発声練習が続く。
蝉2 あーうるさい、うるさい、うるさい!そんな練習しなくても大丈夫だろ?無駄に騒がないでくれないか。
蝉1 おいおい。練習を無駄とか言ってると後悔するぜ。お前も一緒にどうだ?
蝉2 どうせ練習するならもっとエレガントな練習にしてくれよ。
蝉1 エレガント?
蝉2 そう。エレガント。優雅に、気品高く。
蝉1 ア・エ・イ・ウ・エ・オ・ア・オ・ざます!みたいにか?
蝉2 ちがうよ。
蝉1 じゃあ、どうやるんだか教えてくれよ。
蝉3 あいうえお、いうえおあ、うえおあい、えおあいう、おあいうえ。
蝉1 な、なんだ?お前、頭大丈夫か?
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