竹取りロケット
〈竹取ロケット〉

〈役者〉
 橙子    妹。月に行きたがっている。15歳の選抜を逃した。
 あおい   姉。ホログラム映像作家。天才にして「傲慢」。
 上野ハル子 橙子の同級生。15歳で月に旅だった(あおいの役者が兼ねる)



 二つの女性のシルエットが、青い背景とさざ波の音の中でたたずんでいる。二人は手を繋ぐこと
はなく、完全に寄り添う距離ではなく、離れることなく並んでいる。
 一人が、離れて歩き出す。迷いのない、確固たる足取り。一人はそれを眺め、また海へと視線を
戻す。

 波の音が、そっと引いていく。
 明かりが点くと、橙子が黒い箱を持って椅子に座っている。ビデオレターを撮影中。橙子、カメ
ラに向かって手を振る。


橙子「ハルへ。これは、あたしがあなたに送る、最後の手紙です。この映像が月に届く頃、あたし
は、北極にいます。あなたとは、もう、絶交。...急にこんなこと言って、ごめんね。でも、本当は
私、あなたのこと大っ嫌いだったんだ!...(沈黙)...だって、あなたは「あの人」に似ていたか
ら。そして、「かぐや姫」に選ばれたから。あなたは、あたしの欲しいものを全部持って、あたし
の前から消えてしまいました。手紙でも出さないと、友だち甲斐がないと思って、そんな事を気に
する小さい自分が嫌いで、毎月毎月、送っていたビデオレター。もう終わりにします。
これは、あなたへの手紙です。そして、同時に、私の大切な人への手紙でもあるのです。」

 橙子、黒い箱を置く。暗転。

 闇の中、タイピングの音が始まる。橙子の怒声が響く。

橙子「ほんっと信じらんないんですけど!」

 明転。一脚の椅子に座り、ディスプレに向かって仕事中らしい、あおい。
 怒り心頭、髪をかきむしっている橙子。

橙子「もう、なんでよ。なんで、あたしのジーンズ捨てたりしたの!」
 
 あおい、ヘッドフォンを外し、

あおい「は?」
橙子「は、じゃないでしょう。何で人の服を捨てたかってきいてるの」
あおい「ああ?...あー、あの、ぼろ雑巾みたいな」
橙子「ぞうきんじゃない、ダメージ・ジーンズ!」
あおい「要するにボロでしょ。...あ!あ、あ...今凄く複雑な演算が(この辺りまで出ている)...
ふうっ」
 
 あおい、集中して画面に見入る。演算のことを考える彼女は、少し色っぽい。

橙子「ちょっと!」
あおい「...(集中しすぎて適当な鼻歌)」
橙子「こら、あおいさん!」
あおい「(興奮して)来たよ、来た来た来た来た!さあ、草原に風が、吹く!」
橙子「ねえったら!」
あおい「いいじゃない、雑巾の一つや二つ」
橙子「弁償してください」
あおい「じゃ、家賃払ってください」
橙子「...鬼!」
あおい「払えないなら、雑巾くらいでがたがた言わないの」
橙子「あたしが居なかったら、この家なんてすぐゴミ屋敷よ。このゴミ女!」
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