現代冥府のカンパネルラ
□現代冥府のカンパネルラ

作:中山ユカ

 CAST
星野晃(17)……男。高校生
松本鉄郎(17)……男。晃の友人
新海美香子(17)……女。晃と鉄郎の幼馴染
沢渡(17)……女。晃の同級生
和彦……男。居合わせたカップル
伊織……女。居合わせたカップル
幌舞……女。車掌





□第零場 約束(幌舞)

始まりは暗闇。寂しげな、柱時計の鐘の音。
幌舞、先ほどまで誰かの話を聞いていたらしい。幌舞の声だけが、暗転中の中、高く響く。

幌舞「……いいでしょう。忘れられない思い出、もう一度会いたい人、そのすべての答えが、この銀河の宵闇と鉄道に込められています。……(何らかの話が聞こえている)ほうほう、あぁ……そうですか。そりゃあなた、寂しいんでしょう。えぇ、そういう理由だけで同行者を選ぶ方もおられますよ、大丈夫です、安心してくださいふっふっふっふ……北の彼の地の、終わりの名を冠したこの私が、責任をもってあなたがたを天上までお送り致します 」

電車の汽笛の音。この音に幌舞の台詞がかき消されるかと思われるが、以下、台詞の間のみ、無音が訪れる。

幌舞「どうぞ、よい旅を」

音、戻る。


○第一場 喧嘩(晃、鉄郎)

何も見えない中、電車の走行音がガタゴトと小さく聞こえてくる。
やがて音は大きくなり、電車内にいるのとさほど変わらないくらいの音量に収まる。
と、同時に舞台はとてもゆっくりと明るくなっていき、中央に電車のボックス席が見えてくる。
客席側が窓側、ボックス席より奥が通路。上手、下手側に次の車両へと続く出入り口がある。
ボックス席には、星野晃(17)、松本鉄郎(17)が向かい合わせで座っている。
この時点では、まだ完全に明るくなりきってはいない。晃は背を席に預けたまま、うつむいて眠っている様子。鉄郎、通路側から一枚の切符をそっと拾う。鉄郎、周囲を見回し、眠っている晃の懐へ手を伸ばす。そこから、一枚の緑色の小さな証書と拾った切符を入れ替える。鉄郎、晃が眠っていることを確認し、ほっと息をつき、窓側に広がる星空を眺めはじめる。
直後、走行音に混じりながら、聞き慣れた車掌(幌舞)の車内アナウンスが小さく流れてくる。

幌舞『銀河鉄道、幻想第四次冥府線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、冥府線特急、サザンクロス行です。グリーン車は、4号車と、5号車です。グリーン車をご利用の際には、グリーン券が必要です。グリーン券を車内でお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください……』

晃、『グリーン車?』辺りで目を覚ます。

晃「うーん……?」
鉄郎「(窓側を見上げながら)すっげぇー! 晃、見てみろよ! ものすげぇ景色だぜ! ほら!」
晃「んあぁ? なんだよ、うるさいな……」
鉄郎「お前の大好きな星の中を走ってんだぜ? あ! 今の流れ星じゃね!? あーッ! ……通りすぎちまった」
晃「(周囲を見渡しながら)……え」
鉄郎「あーあ。お前、いつまでも寝てるからだよ」
晃「え?」
鉄郎「え? じゃなくて、流れ星。まあこんだけ星の中を突っ切ってれば、今のが最後じゃねぇとは思うけどさ」
晃「……ここどこ」
鉄郎「どこって?」
晃「え、なんで? ……ここ、どこ?」
鉄郎「電車」
晃「なんで電車?」
鉄郎「……なんで? なんで電車かって? ……そりゃなんでだろうなぁ、いや哲学的だなぁ、さっすが教授」
晃「ちゃんと答えろよ!」
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