群読―ワシュウのトラ
    群読―ワシュウのトラ                      高橋幸良

   演者
    全員7人(1〜7)
    前列3人(1〜3)1が主人公であるトンボを主に受けもつ
    後列4人(4〜7)

4    むかし、キビツの国はワシュウという海辺の小さな村にトンボという名の少年がいた。
全    トンボ!
5    父と母は、トンボが幼いときに死んでしまった。
6    それからは天涯孤独、ひとり海へ出て、貝や小魚をとってくらしていた。
7    村の人たちは、みんな優しく、いつもトンボのことを気にかけてくれた。
4    「トンボ、元気か? きのこ置いてくぞ」
5    「トンボ、さるなしがとれたぞ。うまいぞ」
6    「トンボ、今日は家へ来い。泊まってけ」
7    トンボと村の人たち、
3    村の人たちとトンボ、
1    しあわせだった。
全    しあわせだった。

  (音楽をはさむ)
 
2   ある日、トンボは海辺で老人を助けた。
1   「じいさん、しっかりしろ。そら、水だ」
2   老人は、小さな水筒の水一杯で正気をとりもどした。
3   「ここは?…」
1   「ワシュウ、キビツのワシュウだ」
3   「キビツのワシュウ… 助かったか」
4   板切れ一枚につかまって流れ着いた老人は、サヌカの国、ナマリという村から来たウラスと名乗った。
1    「ナマリのウラス! おいら聞いたことある。じいさんは、南のジィか?」
3   「ここキビツの国では、わしをそう呼ぶ」
5   南のジィことウラスは、竜宮へ招かれ、三百年を過ごして帰って来たといわれる、伝説の人であった。
前     伝説の人、ナマリのウラス
後     南のジィ
2   ナマリで海賊につかまり、連れ去られる途中、命からがら逃げてきたという。
3   「わしは、これからキビツの国主に会いに行く。…お前に礼をしたい」
2   そう言って首の勾玉をはずし差し出した。
3   「これは竜宮でもらった宝の勾玉。この玉に念じれば、どんな動物にもなれる」
後      ―どんな動物にもなれる!
1   「動物になれる! おいらがウサギや犬に」
3   「鳥や魚にもなれる。だがよいか。お前は、お前より大きなものになってはいけない」
後      ―大きなものになってはいけない!
3   「お前は二度と、お前に戻れなくなる」
後      ―戻れなくなる!
2   言い残し、南のジィは北へと去っていった。

  (SE)  
  
4   トンボはさっそく勾玉の力を試してみた。
5   首にかけた勾玉を両手で押さえ、目をつむり、
1   「ヒラメ、ヒラメ、ヒラメ」
6   心の中で念じるとトンボの体はみるみる平らになってちぢまり、手の平くらいのヒラメになった。
1   「うわー、海に中、なんてすてきなんだ」
7   海に飛び込んだヒラメのトンボは、アサリの住む砂地からワカメの森をぬけ、南の岩場まで泳いでみた。
4   冷たい水の中をたくさんの魚が泳いでいた。
5   ヒラメのトンボは岩場を後にし、いっきに砂地まで戻った。
6   そっと砂にもぐってみると気持ちが安らいだ。
1   ―あたたかい―
全     ―あたたかい―
1   ―かあさん―
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