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怪鳥は闇を切り裂く

「怪鳥(セイレーン)は闇を切り裂く」
　

登場人物

サキ　　高校２年生　女子　部活ジャージ　
ゆかり　高校２年生　女子　制服
ふみか　高校２年生　女子　制服

一場　　学校の倉庫
　　　　外は台風。酷い風雨の音が聞こえてくる。
　　　　突然スイッチの音がしてライトが点く。
段ボールが積まれていて、教室用の机と椅子が重ねて置かれている。
下手側に扉。
アキラ、ゆりえ、ふみかの三人が登場。

サキ　　ふみかぁ。本当にここにあるの？
ふみか　あるはずだよ。前にここに乾パンとビスケットを運んだことがあるし。
サキ　　水がないと食べられないものばっかりだな。
ふみか　水のペットボトルもあるよ。お年寄りとかだと、乾パンとか堅くてキツイけど、高校生用の非常食だから、そういうものですませたんでしょ。
サキ　　だけどついてないなあ。こんな台風の日に帰りそびれるとか。電車は止まってて動く様子もないし、親にも迎えに来てもらえないし、友達の家に泊めてもらうとは言ってあるけど。
ふみか　今日は、教室で一晩すごすしかないね。だけど気をつけないと。用務員さんに見つかったらすごく怒られるだろうし。何でこんなとこにいるんだって。
サキ　　ウチは、そこから顧問の松永先生に伝わる方が怖いよ…。それに、ふみかと一緒なのはともかく、(ゆかりを指さす)なんでこいつと一晩過ごさなきゃならないの！
ふみか　ちょっと…。
サキ　　(ゆかりに)なんであんたも一緒についてくるの？　教室で待ってればいいのに。ウチはあんたみたいな子となるべく一緒にいたくないんだけど！
ゆかり　こんな夜に、ひとりでいたら怖いから…。
サキ　　ハン！　そんなことを言ってるから、女子サッカー部を途中でやめたりするんだ！　あんたはね、裏切り者なんだよ！　
ゆかり　あたしが部活を辞めることは、顧問の先生も認めてくれたよ…。
サキ　　それはね、松永先生が、あんたを見放しただけなんだよ！　いくら教えてもすぐ忘れる！　ちょっとなんか言われればすぐにピーピー泣く！　いてもいなくてもおんなじだ！　いや、いるとかえって邪魔になるって思われただけなんだよ！
ゆかり　もともとお父さんに無理矢理入らされただけだし、サッカーだけじゃなくて、もともと何をやってもうまくいかなかったし。
サキ　　中途半端にやるくらいなら、もともとやらない方がいいんだよ！
ゆかり　そうだよね。あたしがやったことなんて、全部中途半端だから、何もかもやらない方がよかったんだよね。
サキ　　いじけるなみっともない！　そんなことを言われてウチが「そんなことないよ」とでも言うと思ってるのか！　そういう台詞は、ふみかにでも言いな！　そういう、「最後まで頑張らないくせに、言い訳ばっかりしている奴」がいちばんウチはむかつくんだ！
ゆかり　最後っていつ？
サキ　　部活だったら三年間に決まってるだろ！　どんなことでも途中でやめる奴は負け犬だ！　それは、嫌なことだってたくさんあるだろう。だけど、嫌なことから逃げていていたら、いつまでたっても成長なんかできるわけがないんだ！　あんた、部活やめて、成績が上がった？　そーじゃないよねー。時間があったって、勉強しない奴は勉強しないんだ！　部活から逃げるような奴は結局何をやってもダメなんだよ！
ゆかり　勉強は、もともとダメだったよ。部活のせいにするつもりはないよ。あたしは、勉強も運動も、ついでにいうとお母さんに無理矢理やらされたピアノも、全部ダメだった。
サキ　　努力もしないで、ダメだったとか言う奴がいちばんむかつくんだよ！
ゆかり　わたしなりの努力はしたよ！　だけと何をやってもダメなんだよ！
サキ　　ハン！　誰だって「自分なりの努力」はしてるんだよ！　だから、最後まで、結果が出るまで努力しなくちゃいけないんだ！　現にあんた以外の部員はそうしてきたんだよ！

　　　　ふみか、サキとゆかりの間でオロオロしているが、そのうちに二人から離れだす。いきなり壁のスイッチを押す。ライトが消える。風雪の音。

サキ　　あれっ。どうしたの？
ふみか　ごめん。変なスイッチ押しちゃった。ちょっと待っててね。

　　　　しばらくの間。風雨の音が大きくなる。突然ライトが点く。

ゆかり　ああ、点いた、点いた。

　　　　サキ、いきなり体を強ばらせてふみかに抱きつく。

ふみか　(アキラに)どうしたの？

　　　　サキ、無言で床を指さす。

ふみか　Ｇだ！　Ｇがいる！　殺虫剤を！
ゆかり　そんなもの取りに行ってる間に、どっかに入りこんじゃうよ。

　　　　ゆかり、近くにあった新聞紙を丸めて、床をバンバン叩く。ティッシュをスカートのポケットから取りだし、床に置いてつまみ上げ、握りつぶす。ふみかとサキ、抱き合っている。

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