糸は短し、切れ易し
「糸は短し、切れ易し。」                作:瀧澤豚琴
CAST
   <現在>            <未来>
    渚               ノゾミ
    唯               ミライ
    明日香             ヒカル
    光平              ソーヤン
                    れいちゃん
                    蓮司
   <?>
    タマ

― SCENE 1 ―
  音楽の中で幕が開くと、舞台中央と下手よりにテーブルと椅子が数脚セットされており、上手奥にカウンターがある。
  下手奥のレジ台にはレジスターがあり、数年前までは喫茶店として営業していたようだが、今はクローズしている。
  舞台後方に猫(タマ)が寝ている。やがて―

タマ  (前に出て)あたしがまだ一才くらいで、普通の猫だった頃、人間はもっともっと穏やかで、おおらかで、優しかったと記憶している。
     でもそれは、もしかすると、あたしの何代も前の記憶で、遺伝子レベルで引き継いでいただけなのかもしれない。でも今、人間は変わってしまった。
     それは、はっきりと言えると思う。じゃあ、いつから変わったのか。それはたぶん、あたしが、今のあたしになってしまった、あの頃からなんだと思う。
     そう。人間は、もしかしたら気付かなかっただけなのかもしれないけど、そのスイッチを押してしまったんだ。(退場)

  照明が戻りしばらくすると、カウベルの音とともに扉が開き、下手から、渚、明日香、唯の順に登場。

渚    どうぞ〜。
明日香  わ〜、すごいすごい。何か、レトロでいいね〜。
唯    ああ、明日香って、初めてだっけ? ここ。
明日香  うん、初めて。
渚    その辺、適当に座ってて。
明日香  ねぇ、ここって、食べもの屋さんだったんでしょ?
渚    うん、喫茶店。
唯    昭和から続く喫茶店って、この辺じゃちょっとしたランドマークだったんだよ。
渚    上げすぎ。ただの古めかしい喫茶店だよ。
明日香  唯は来たことあんの? その頃に。
唯    もちろん。てゆうか、今と変わらず吹き溜まってましたね。
明日香  え〜、いいなあ。何でやめちゃったの? もったいない!
渚    ここは、私のおばあちゃんがやってたお店なんだけど、2年前に病気してね、今はホームに入ってるから。
唯    それでも、元気になって帰ってくることを信じて、そのままにしてあるんだよね。
渚    まあ、おまじないみたいなもんよ。
唯    とか言っちゃって。渚の目下の夢はねぇ、いつかこのお店を再開して、後を継ぐことなんだって。
渚    ちょっと、何でそうやってバラスかなぁ。
唯    いいじゃん、明日香だって仲間なんだし。
明日香 (あらためて辺りを見回し)ふ〜ん、そうだったんだぁ。・・・何か、いい話だね。・・・・・・あたしさぁ、みんなが『第2練習室』とか言ってたから、
     どこにあるんだろうってずっと謎だったんだよね。
渚    そっか。明日香って、友達としては古いけど、部活では新人だったんだね。
唯    今さら何、感慨深げに。
明日香  で、ホントにいいの? ここで練習して。
唯    練習って言っても、大声出したり、動き回ったり、じゃなくて、セリフ合わせとか、ミーティングとか・・・
渚    ウチはやってもらっても構わないんだけどね。でも結局、ダベって終わることが多かったりして。
明日香  だけどいいよね。今日みたいに、テスト終りで学校使えないときってあるもんね、助かるよ。
唯    そうだ〜! 期末終わったんだぁ〜! やった〜!
明日香  ねぇ、どうだった?
渚    今は聞かない! せっかく解放感に浸ってるんだから。
唯    そうだよ、少しは空気読めよな。演劇部だろ?
渚    それ、光平の真似?
明日香 (笑いながら)似てた。あたし、よっく言われるんだよね。
唯    そういえば、遅いね。どうする? 始めちゃう?
渚    いや、部長抜きで始める訳いかないでしょ。

  この時、カウベルの音と共に、光平が登場。
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