SENTO
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                            小川リューク
                        
登場人物
兵士1(少女)
兵士2(おばちゃん)
少女
おばちゃん


0プロローグ

  静かに幕が開くと舞台中央には戦艦(小さな舟)らしき影。 そこに2人の兵士が乗り込んでいる。 彼らは戦友であるらしい。 二人はしばらく望遠鏡をのぞき込んだまま動かない。 戦場の射撃音が遠くの方から聞こえてくる。

兵士1 見えますか?
兵士2 ああ、だが、はっきりとは見えんなあ。
兵士1 はい、でも、確かに近いです。 さっきより、音が大きい。
兵士2 うん、近いな……
兵士1 はい。 準備は出来ています。 あとはもう、
兵士2 いや、どうすればいいんだ。
兵士1 え……?
兵士2 わからない、何が、何が近づいてるんだ。
兵士1 はい? 
兵士2 我々は何に抗い、戦っているんだ。 
兵士1 そりゃあ、それ……は、

  ガラガラと崩れ去る音。

兵士1 何でしょうか。
兵士2 ……。
兵士1 何が崩れ落ちたんでしょう。 今のはかなり近い。
兵士2 ……わからない。 
兵士1 私たちは、何が崩れてゆくのか、何が近づいてくるのかもわからないのですか…
兵士2 ああ、、、わからない。 
兵士1 ……あ、もしかしてあれではないですか。
兵士2 うん、あれかもしれない。
兵士1 あれ…あれが、すべて崩れ去ってしまったんでしょうか。 
兵士2 ああ、きっとな。
兵士1 そんな、
兵士2 ただ、悲しいのではない。
兵士1 え?
兵士2 破壊されたことが悲しいのではないんだ。
兵士1 悲しいのではない。
兵士2 そこにあったものが崩れ去ってゆくのは、ただ、静かに淋しい。

  突然、今までずっと遠くの方で聞こえていた射撃音が止む。 

兵士1 どうでしょうか? 今、どの辺りでしょう。
兵士2 どの辺りだろうか。
兵士1 でももう、きっと猶予はないでしょう。 今、こうしている間にも
兵士2 こうしている間にも
兵士1 我々はもう取り囲まれているのかもしれない。
兵士2 我々はもう、手遅れかもしれない。
兵士1 周りは、周りはみんな殺られた。
兵士2 周りはみんな殺られたか……。
兵士1 ですが、我々にはまだ、希望がある。我々もフネの上です!
兵士2 なぜ、そう思う? こんな小さな舟で、こんなにも成すすべがないのにか。
兵士1 あなたには見えますか? 
兵士2 ああ、恐ろしい大きさの軍艦と真っ赤に染まる海が見える。

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