Vamps
ー仮面劇・オンライン演劇等用ー
Vamps(ヴァンプス)     仮面劇(オンライン演劇も可能)    企画:楠木あゆみ 作:白神貴士

アンジー三浦(心療内科医)
如月麗(患者)

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  [映像で] CHAPTER 1

 胸に杭が刺さっている
 左の乳房の内側に盛り上がった肉をまといつかせ
 叩かれて頭が割れ潰れた丸木の杭が
 10センチばかり頭を覗かしている
 「これがあったから……」
 ぴったりと、あの人の胸に抱きとめてもらうことが出来なかったのだ
 ようやく納得できた私は微笑んだらしい
 打ち込まれ、余程血が噴き出したものか
 杭はどす黒く染まり、何処かで見た仏像のような光沢さえまとっている
 古い物には違いない……が、今……
 私はその杭を伝った液体が落下して陰毛を揺らすのを感じた
 指にとって顔に近づけると、つんと鉄錆の臭いがした
 血だ
 背中の方がもっと酷いのか、合成樹脂の椅子と剥き出しのお尻の間がぬるぬるしている
 背中に手を回すと、こちらも10センチばかし杭の尖端が突き出して
 血がドーナッツ状の瘤になった傷口から垂れている
 痛みが
 貫かれているはずの心臓から、どくどくと湧き上がってくる
 
 どうして忘れていられたのだろう……この痛みを……どうして
 
 背中の杭がつっかえて椅子にもたれることができない
 辛いよう
 どんどん胸が苦しくなってくる
 顔から血の気が引き、さーっと体温が下がっていくのがわかる
 血が止まらない
 この傷は生きているんだ……生きて"ここ"にあると叫んでいるんだ
 血が止まらない
 私を嫌って、私の中から逃げ出そうとしている、全部逃げだそうとしている
 ……無くなってしまう

 血が止まらないよう
 血が止まらないよう
 血が止まらないよう
 血が止まらないよう

  ノートパソコンの画面に表示された「それ」を読んでいたのは心療内科の医師・三浦。
  舞台の反対側に、同じくノートパソコンに向かいオンライン診療を受けている如月麗。

三浦
 「如月さん…あなたがこれを書いたのですか?」
如月
 「いえ、事はそう簡単じゃないんです。『私』は書いた覚えが無いんです。
  朝、目覚めるとノートの画面にこれが……そして床にはびっくりするくらいの血だまりがあって、
  手首には包帯が巻かれていたんです……」
三浦
 「全て覚えは無いんですね?」
如月
 「そうです。これは……やっぱりあの病気なんでしょうか?」
三浦
 「うーん……まあ、可能性は……とにかく一度、診察に来て頂けたら良いのですが。」
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