こころここに。
   ゆう 男
   ひな 女
   りく 男
   まい 女
 
   とある東京の踏切。時間はもう遅く、来る電車の本数も減っていた。
   線路上にひなが立ち、踏切の外にいるゆうに対して背を向けていた。
 
   溶明
 
 ゆう:「まって!どうしたんだよ!」
 
 ひな:「来ないで」
 
 ゆう:「なんでだよ。なにがあったんだよ」
 
 ひな:「私気づいたの。君と一緒にいることで幸せを感じることはもうないって」
 
 ゆう:「どういう意味だよ」
 
 ひな:「そのままの意味よ。もう一緒にいたくないの」
 
 ゆう:「俺の気持ちは無視?急に家出るなんて言わないでよ。とりあえず帰ろう?ね?家で座って落ち着いて話そう?」
 
 ひな:「いやだ。もう限界なの」
 
 ゆう:「今まで付き合ってきてこんなふうになることなんて一度もなかったじゃん」
 
 ひな:「5年よ。5年間我慢しながら付き合ってたの。一つ一つの我慢は小さなものだったのかもしれない。でも、それが全部ぜんぶ積もって今こうなっているのよ」
 
 ゆう:「そんな……。相談してくれればよかったじゃないか!そしたら俺だってまだ直せる余地があったかもしれないじゃないか。」
 
 ひな:「私に言われないと直す気はなかったっていうことでしょう。こうやって私に、行動に移されてから自分の置かれた立場に気づく。そういうところよ。自分でいい加減考えて行動したらどう?」
 
 ゆう:「それは……」
 
 ひな:「こんな事今言ったって遅いけれど、覚えてる?5年前私と付き合うときに君が言ってくれた言葉。『俺は俺でいるために自分を磨き続けるから、お前もお前を磨き続けながら俺についてきてくれ』って。あの時の私たちはお酒が入ってて、少しクサい言葉だとは思ったけれど私のことを大切にしてくれるんだって、今後のことも考えてくれてるんだって心の底から思ったのよ。それなのに同棲してからというもの、起きてゲームして寝て。家事の分担だって決めた通りやらないし家賃も食費も光熱費も、デートのお金さえぜんぶ私が出して。なにが『磨き続ける』よ。堕落の一途を辿り続けて、よくもそんなんで相談してだの、直す余地があるだの言えたわね」
 
 ゆう:「俺だって堕落したくてしたわけじゃない!俺だって苦労してるんだ。それをお前は俺の苦労の一つも知らずに、グチグチお節介も過ぎるように言ってくる。俺の休める場所はいったいどこにあるっていうんだよ。外に出たらニートと言われ家に帰ったら好きな人にキレられる毎日なんだ。俺の居場所はどこにもないんだ。それをわかってくれよ」
 
 ひな:「それは自分の、君だけの話でしょう。私は、私たち二人の話をしたいのに!いつもいつもいつも自分のことばっかり!それだから君が大切にしてきた人がいなくなるの!わかる?私はずっと二人の生活のことを考えていたのに君はずっと君のことだけ。いつになったら大人になるの。もう子供でいる歳じゃないの。将来のこととか考えなきゃいけない年齢になったの」
 
 ゆう:「でも俺、ほら精神疾患持ってるからさ。人とコミュニケーション取るのも苦手だし、ネガティブな感情が常に押し寄せてくるんだ。それだけでも十分辛いんだよ。お前は健常者だからわからないだろうよ。障害者の辛さが!」
 
 ひな:「ほら出た。そうやって精神疾患を盾にして自分に都合の悪いことに対してはすぐに逃げて。じゃあ聞くけど、精神科には行った?カウンセリングは?障害を乗り越えようって考えたことが一度でもある?聞きかじったような言葉だけ並べて思い込んで、ググって得た知識を自分の存在価値を上げるためじゃなく言い訳のために使って。君は精神疾患でもなんでもなく、社会が怖くて逃げ出したただのガキよ」
 
 ゆう:「なにもそこまで言う必要ないだろ」
 
 ひな:「ここまで行っても君は変わらない!」
 
 ゆう:「……」
 
 ひな:「ごめん。大きい声出した。でもそういうことだから」
 
 ゆう:「……ごめん。俺ちゃんと変わるから。もう一度だけ、俺にチャンスをくれないか。もう逃げたりなんかしない。俺ができる最大限の努力をするから」
 
 ひな:「そっか」
 
   暗転
 
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