終焉のハーモニー
 shoot and harmony


 波打ち際に座っている女子高生のもとへ、砂浜を歩いて近づいてくる足音が届く

皇ケイ:「こんにちは」
少女:「……」
皇ケイ:「はじめまして」
少女:「……意味あります?それ。あと三十分ちょっとですよ。ほら」
皇ケイ:「あっ、スマートウォッチだとそんな風に表示されるんだ。初めて見た」
少女:「1週間前の宣言からです。あのあとアプデが入って」
皇ケイ:「そうだよね~スマホの方も何かと通知が来てさ、こんな時でも頑張ってるお役所のお偉いさんとか、大変だよね」
少女:「……」
皇ケイ:「私、皇ケイ。あなたは?」
少女:「…」
皇ケイ:「ふーん。ねぇ、それなに?」
少女:「あの、私最期くらい静かにと思ってここに来たんです」
皇ケイ:「私もそう。でもこんな面白いもの見て、スルーなんて出来ないでしょ」
少女:「面白い?」
皇ケイ:「どっか静かなところはないかなってふらふらしてたら、路に血痕が続いてた。ぽたぽたと赤黒い点線が。後を追ってみたら、波打ち際で体育座りしているセーラー服の女子高生。しかも傍らには砂浜に刺さってる日本刀。面白いでしょ?」
少女:「…怖くないんですか?危ないとか思わないんですか?」
皇ケイ:「まぁ、どうせ三十分後には皆死んでるんだし、誤差かなって」
少女:「そのちょっとが大事かもしれないじゃないですか」
皇ケイ:「―――うん。そうだね。そのとおり」
少女:「?」
皇ケイ:「そういうわけだから、静かに過ごしたいってところ申し訳ないんだけど、私の好奇心が収まらないの。だから、聞いてもいい?」
少女:「正直いやです」
皇ケイ:「だよね。でも諦めて」
少女:「……」
皇ケイ:「ふふっ。で、改めて聞くけど、それなに?」
少女:「どれです」
皇ケイ:「えっとまずは、その、あなたの座ってる目の前の、波打ち際でぷるんぷるんしてるそれ」
少女:「見てわかんないんですか?男性器です」
皇ケイ:「えっ?ちっさ!」
少女:「血が抜けたんじゃないですか。ついさっきまではもう少し大きかったですよ。そのうち海水を吸ってぶよぶよになるかもです」
皇ケイ:「貴方が切ったの?」
少女:「はい」
皇ケイ:「その日本刀で?」
少女:「はい」
皇ケイ:「ぷっ、くくっ、あっははっはははははっはははは」
少女:「(笑いに被せながら)そんなに面白いですか?」
皇ケイ:「(笑いを収めながら)だって、ふふっ、普通ありえないでしょ。っく、おっかっしーの。ぷっ」
少女:「……」
皇ケイ:「ごめんごめん、笑いすぎたね。襲われそうになったの?怖かった?」
少女:「別に、怖いって感じじゃなかったです。一生懸命でした。かわいそうなくらい」
皇ケイ:「童貞のまま死ぬのは嫌だ!って感じ?」
少女:「ええ、まぁ。私もそういう経験なかったし、いいかなって一瞬思ったんですけど――」
皇ケイ:「愛もないのに身体を重ねるのが嫌だった?」
少女:「愛なんて、私にはわかりません。でも、なんというか、純度が落ちる気がして」
皇ケイ:「純度?」
少女:「触れ合って、溶け合って、境界があいまいになって。自分の型枠が侵されるというか、輪郭が滲んでしまうというか」
皇ケイ:「そっか。なるほど、そっか――あなたは残したいんだね。こんな世界になっても、自分だけの残り香を」
少女:「え?」
皇ケイ:「まあなんにせよ、自己防衛ってわけだ!もし裁判があっても情状酌量の余地ありって感じかな?」
少女:「そんな心配、意味ないですよ。残り時間でどんな犯罪をやったって、やったもん勝ちです」
皇ケイ:「そうだねー。うん、ほんとにそう。やったもん勝ち」
少女:「?」
皇ケイ:「あ、じゃあもしかしてその日本刀はどっかから盗んできたとか?」
少女:「いえ、それは商店街歩いてる時に顔見知りのおじさんに貰いました。変なのに襲われたら振り回せ、それで大抵の奴は引き下がるからって」
皇ケイ:「予言的中ってわけだ」
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