カフェに現れた奇人
舞台はカフェ。椅子とテーブル(orボックス)が4つずつ上手と下手に置いてある。下手奥に
女性客が板付きで座っている。やがてお盆にコーヒーカップと皿を乗せた男1が入場し上
手奥に座る。カップの中身は空である。男は優雅にコーヒーを嗜んでいる。やがて男の心
の声が音声で流れる。以降男1は心の声に動きを合わせていく

男1 「・・ふう。仕事の合間のこの一杯。好物の熱々に熱せられたコーヒーは私に穏や
かな一時と脳に深い安らぎを与えてくれる」

男1、持ってきた鞄からノートパソコンを取り出す

男1 「私の様な有能な人材は課せられたノルマの更に先を予見し前もって遂行してしま
う。上司に言われるがままの仕事をしていては評価も昇進も無い。時間は有限だ。より充
実したプライベートを過ごし、かつ圧倒的な才能と努力で周りを突き放す。全く、自分の
能力が恐ろしい」

男2、男1の心の声が流れている間に入場。手にはカップとお皿の乗ったお盆を持っている
。男1、男2に目線をやる。男2は下手前に着席。席につくとすぐ携帯電話を取りだしコー
ヒーセットを撮り始める

男1 「これだから凡人は困る。節操もなく誰が求めているとも知れぬ写真をひたすら
SNSに挙げ続け自己顕示欲を満たす。カフェに来たなどどうでもいい情報を世界に発信す
るぐらいならその時間で自分を磨き、誰もが慕う大物に成る努力でもすればいいものを。
まぁ、それが出来ないからあんなことをしているんだろうがね」

男1、コーヒーを飲み天を仰ぐ

男1 「世の中は9割5分の凡人と5分の秀才で成り立っている。多くの凡人の姿を見て憐れに思う反面、羨ましさを感じることもある。彼らはほんの少しの刺激にも一喜一憂出来るのだから。 世の中は、想像以上に退屈だ」

男1、再びコーヒーを飲むマイム。男3、下手から入場。背中に大きなリュックサックを背
負い両手にコーヒーカップが大量に乗ったお盆を持ち入ってくる。男3は結構必死な顔を
している。男1、コーヒーを吹き出す

男1 「な、何だあの男は。何故ファーストドリンクを持ってきた居酒屋店員の様に山の
ような飲み物を持ってきているんだ。まさかあれ全て一人で飲むのか?いや、そんなおか
しな話が」

男1、男3と目が合う。男3、1に向かってウインクをする

男1 「何だそのウインクは!初対面だぞ」

男3、上手前の席に慎重にお盆を置き、座る

男3 「(大声で)ふいーーー」
男1 「うるさいぞ、ここは静寂をこよなく愛するものが集うカフェだぞ」

男3、すごい勢いで持ってきたコーヒーを片っ端から飲むマイム

男1 「ええっ!?ええええええ!?何をやっているんだこいつは。本当に1人で飲む分だ
ったのか?理解できん、何故家でやらんのだ。ていうかよくベロを火傷しないな」

男3、ベロを火傷したマイム

男1 「言わんこっちゃない。何だあいつは筋金入りのバカなのか?どういう思考回路を
していたらあんな奇行に走るなど・・いかんいかん、折角の昼休憩が台無しだ。あんな狂
った奴は無視して仕事を進めなくては」

男3、鞄から六法全書を取りだす

男1 「六法全書・・あいつ司法試験を受ける気なのか。あんな奇行に走る奴が他人の弁
護を出来るとは思わないが」
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