正義の味
20-25分

一条 真 
警視庁所属の若きエリート。なのだが、犯罪捜査の第一線での傍若無人な活躍ぶりは、罪を暴くためならなんでもやるというもので、色んな意味で一目置かれている。捜査官としての勘は鋭く、その信念は危ういほど。

久遠恭也
若くして社会心理学の権威として名を馳せる学者であり、三代前の総理大臣の孫。人柄は温厚で理知的、聡明な人格者として界隈では信頼を得ている。その全ては、悪をなして巨悪を討つ、その信念のために。


2人は互いの病的なまでの善性、歪曲した悪性を直感している。それが今夜、確信に変わる。

以下本編


―――高層ビル屋上に続く階段(屋外設置型の金属製のもの)を駆け上がる一条真

その先で悠々と待ち構える久遠恭也

一条真:「(階段を駆け上がる)はっ―はっ―はっ―はっ、ふぅ、やっと会えたな、蜘蛛野郎」

久遠恭也:「誰かとお間違えではございませんか?私はただ、この夜景がきれいな 展望台で、月夜と夜風を楽しんでいただけの一般人ですよ」

一条真:「とぼけやがって。お前が見てたのは夜景じゃなくて、数分前に向かいのビルのオフィスで行われた殺人だろうが。 ―――お前が、黒幕だな」

久遠恭也:「はて、なんの黒幕なのでしょう」

一条真:「数年前から起きている一連の権力者殺し。その黒幕だよ」

久遠恭也:「さて、私にはとんと見当もつきませぬが、何か、証拠でも?」

一条真:「なにも。まだ、な」

久遠恭也:「あなたはどうやら警察官のようだが、証拠もないのに人を殺人犯呼ばわりとは、些か礼を失しているとは思いませんか?」

一条真:「悪人に無礼を働いたってなんとも思わねぇさ」

久遠恭也:「なるほどなるほど。確かにあなたの言うように、私が多くの命を奪った卑劣な殺人犯なら、礼を尽くす必要はないのかもしれませんね」

一条真:「確かに、物的証拠は何もない。お前はいつも他人の心の弱みに付け込んで、まるで人形を操るように罪を犯させる。どの事件も実行犯は逮捕済みだが、不自然な謎を孕んだままだ」

久遠恭也:「そんな魔法のような所業を成せたとして、私は何の罪で捕まるのでしょう? 殺人教唆の証拠もないのならば、私が念力で操ったとか?法治国家であり罪刑法定主義を掲げるこの日本で悪を裁くというのであれば、それは既に定められた、起こりうる悪でなければならない。法は、悪の魔法使いを裁くようには出来てはいない」

一条真:「そうだ。法廷をすっ飛ばした私刑はありえねぇ。非合理的な言いがかりも、不確定な憶測でも、罪は裁けない。裁いちゃならない」

久遠恭也:「流石は刑事さん。よくお分かりでいらっしゃる」

一条真:「だが、未曽有の悪が存在するとしたら?まだ誰も見たことのない悪が存在するとしたら、それは野放しにされたままでいいのか?」

久遠恭也:「だから、あなたがそれを裁くと?」

一条真:「いや、俺は暴くだけ。裁くのは法だ。だからお前の悪を暴いて、悪と法のすり合わせをやる。ルールは人が決めたもので、時代と共に変わるもんだ」

久遠恭也:「ククッ、面白いお方だ」

一条真:「お前はいつでもそうだ。他人の人生が壊れていくのを悪辣(あくらつ)な笑みを浮かべる最低のクズ野郎だ」

久遠恭也:「いつでも?今日初めてお会いするはずですが?」

一条真:「俺はお前の存在に気づき始めてから四六時中お前のことを考えてたぜ。思春期真っ盛りの女学生もドン引くレベルの片思いさ」

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