変身
健太
美樹
母親・女

【一幕】

    幕があがる。建太が膝を抱えてうずくまっているところにサスが当たる。
    ゆっくり顔を上げる。

建太  ある朝、僕は目が覚めると巨大な虫になっていた。

    周りを見渡す。手や足を伸ばしてみる。

建太  起きれないかと思ったら、意外とあっさり起き上がることはできた。(立ち上がって片足を横に出す)二本足で…立てちゃ
    う。しかし、虫である。背中には甲羅のようなものがついているし、手も足も触角のようなギザギザがついている。紛れも
    なく、虫だ。虫になっているのだ。幸か不幸か僕の部屋には鏡がないので自分の全身を見ることができない。

    ノックする音。建太は慌てて毛布をかぶる。ドアが少し開く。明転(部屋の中)。

母親  建太? もう時間だから起きなさい。
建太  ああ…ちょっと今日は具合が悪くて…。
母親  え? 具合が悪いの?
建太  大丈夫、大丈夫だから入ってこないで。
母親  具合が悪いのか大丈夫なのか、どっちなの?
建太  具合が悪いけど大丈夫。
母親  何を言ってるの?(入ってこようとする母親。慌ててドアを押さえる)
建太  本当に大丈夫だから、いや具合悪いけど入ってこなくていいから、大丈夫じゃないけど大丈夫だから!
母親  …そう。じゃあ、学校には具合が悪くて休むって連絡しておくからね。

    ドアを閉める。
   
建太  ふう…あぶなかった…

    這うようにして部屋の真ん中に戻る。

建太  さて。これからを考えなければいけない。僕は今、高校三年生だ。進学を考えていたが、つい先日の推薦入試に落ちてしま
    い、これから先のことをどうするか考えなければいけない大事な時に…虫だ。虫になってしまった。

    再びノックの音。

建太  だから、今日は休むから!
母親  それが…。
美樹  建太!

    勢いよく美樹が入ってきて、慌てて毛布をかぶる建太。

建太  な、何しに来たんだ!
美樹  何って、迎えに来たんじゃない。
建太  今日は休む。ていうか、だいたいおまえと一緒に学校に行く約束なんかしてないぞ。
美樹  この前したじゃん。学校に行く時に寄るからって。
建太  いつ。
美樹  …この前。
建太  この前っていつだよ。
美樹  だから…この前。
建太  覚えてない。
美樹  …まあそうだろうなとは思ってたけど。かなり落ち込んでたから。
建太  落ち込む? 俺が?
美樹  うん。かなり。幼稚園からの付き合いだけど、あんなに落ち込む建太は初めて見た。
建太  …ああ、あの日か。
美樹  あの日から、建太ちょっと変だよ。
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