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トビラノムコウ

「トビラノムコウ」

　　　脚本　橋口征司

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登場人物

　女１　尼江ルネ　　　売れないヤオイ作家。今は普通の小説も書いている腐女子。
　女２　ノーラ・Ｍ　　未来から来た猫耳付きメイドロボット。
　女３　黄菱イヨ　　　ルネの担当。女王様気質。

　　　　　☆

　　舞台は作家の仕事部屋。上手と下手それぞれに扉がある。
　　中央に机（テーブルでもちゃぶ台でも可）があり、ルネが座って執筆中。
　　やや上手寄りに、猫耳を付けたメイド服姿のノラがちょこんと座っている。
　　前掛けには大きめのポケットが付いている。
　　ルネはイライラしながら書いては消し、消しては書き、原稿を丸めてノラの方に投げる。
　　ノラ、それを投げ返す。何度か繰り返す。

ルネ　あ〜もうっ！やめなさいよ！
ノラ　もう終わりですか？
ルネ　あんた、未来からわざわざあたしの邪魔しにきてんの？
ノラ　やけにイラつてますね。体調を診ましょうか？
ルネ　何よ、そんな機能も付いてんの。
ノラ　健康診断機能です。（ルネの額に手を当て）ピピピ…チーン！γＧＴＰ、正常。
　　　血糖値、正常。血圧、１５１の７６。上がちょっと高め。体脂肪率、３１％。
　　　ちょっと高め。体重…
ルネ　ストップ！それ以上は個人情報だから。
ノラ　太め。体温も測りましょうか？
ルネ　いま何て言った？ねぇ、何だって！？
ノラ　（にっこり笑って）体温も測りましょうか？
ルネ　…お願い。

　　ノラ、ポケットから普通の水銀体温計を取り出し、振る。

ノラ　はい、お口あ〜ん。
ルネ　ちょっと！
ノラ　あ、ワキ派ですか？
ルネ　違うわよ！何で体温だけそれなのよ？
ノラ　正確に測ろうと思って。
ルネ　さっきγとか血糖値は手で測ったじゃない。
ノラ　体温測定機能は付いてないんですよ。
ルネ　どんな健康診断機能なのよ…もういい。熱は無いから大丈夫。
ノラ　そういう素人判断が手遅れにつながるんですよぉ。平熱のまま進行する病気と言えば、
　　　肝臓がん、すい臓がん、胃がん、肺がん、乳がんに前立腺がん…
ルネ　何で癌ばっかりなのよ！
ノラ　じゃあ脳卒中、脳梗塞、心筋梗塞、気管支喘息にアトピー性皮膚炎。
ルネ　どれだけ不安にさせりゃ気が済むのよ。
ノラ　イライラの原因はクラミジアですか？
ルネ　そんなわけないでしょ！し・め・き・り！あと１時間でイヨさんが原稿をとりにくるの！
ノラ　イヨさん？
ルネ　黄菱（きびし）イヨ。あたしの担当。すごく怖いんだから。
ノラ　だからピリピリしてるんですね。。
ルネ　大体あんたは、未来から来た猫型ロボットでしょ？ちっとはあたしの役に立つ
　　　ひみつ道具のひとつやふたつ、出したらどうなの！

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