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一人芝居「花京院麗子は優雅に舞う」

一人芝居シリーズ④　
　「花京院麗子は優雅に舞う」　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　作：澤根孝浩
　　−登場人物−

・花京院麗子（４６）

　　　　（照明）地明かり、フェイドイン。

　　　　舞台上には客席に向かって麗子が座っている。お見合の場。
　　　　横にいた仲介人が席を外したようである。頭を下げてそれを見送る麗子。
麗子：…それでは改めまして、花京院麗子でございます。…ひゃーどうしましょう。わ　　　たくし、お見合いなんて初めてでして…もう緊張緊張で…。おじさまたちも行かれ　　　てしまいましたし、どうしたら良いのか…。
　　　　わぞとらしい感じの麗子。相手の表情を気にする麗子。
麗子：…高井さん、険しい顔をされていますが、大丈夫ですか？　体調が悪いとか？
　　　　相手が何かを話した様子。
麗子：…お見合い相手があなたですか…？　
　　　　笑う麗子。
麗子：やだわぁ。高井さん。面白い方ですわね。当たり前じゃないですかぁ。もぉ。わ・　　　た・く・しです。そう、花京院・麗子です。
　　　　ばーんとした感じの麗子。
麗子：…え？　お見合い写真と違う？　そんなことあるわけ…。
　　　　言葉を遮られた様子の麗子。
麗子：はっ？　お見合い写真を持ってきてる？
　　　　少し焦る麗子。
　　　　写真を見せられている様子。
麗子：…ほらっ。わたくし、そのものじゃありませんかぁ。同じ髪型でしょ、このメガネ　　　も同じ。ね？　…目も同じ…二つ…ですし、鼻も同じ…一つ…ですし…。正真正銘、　　　わたくし、花京院・麗子ですわ。…まぁまぁ、それにしてもお写真を持って来られ　　　るなんて高井さんも用心深いといか…意地悪というか…なんというか…。
　　　　いろいろと言いながら、写真をグシャグシャにしている様子の麗子。グシャグシ　　　　ャにし終えると、自分の後ろに写真を放り投げる。
麗子：…目の前に本物がいるのに写真を見るなんてナンセンスですものね。お花見に行っ　　　て、桜の写真を見ているようなものでしょ？　え？　あなたは桜じゃない？　桜に　　　…失礼？　高井さんもなかなか言いますわねぇ
　　　　こたえてない麗子。
麗子：…はい？　年齢？　あら、お聞きになってらっしゃらないんですか？　…２９歳で　　　す。…高井さんは確か２４歳でしたわね。わたくしの方がすこーしお姉さんですね。　　　金のわらじ、ゲットですわね。
麗子：意味が違う？　…やだっ。高井さん、そんなに、じろじろと顔を見なくてもぉ。い　　　くら花見に例えたかからっていっても…恥ずかしいですわ。…そういうことじゃな　　　い？　まぁまぁ照れなくても良いですわぁ。
　　　　笑う麗子。
麗子：それでは、今度はわたくしも質問、よろしいですか？　…えっと…まず簡単なとこ　　　ろからで…（強調して）ご年収はいかほど？
　　　　さっと、メモとペンを取り出す麗子。
　　　　相手が話している様子。
麗子：二千万！？
　　　　あまりの驚きにメモとペンを落とす麗子。
麗子：…二千万…きた…長年待った甲斐があったわ…。三高…高身長、高学歴、高収入…　　　誰も使わなくなったこの言葉を胸に頑張ってきて、ついに掴んだわ…。（悪そうに）　　　絶対にこのチャンス、逃がさない…。
　　　　相手が何かを言った様子。
麗子：あ、いえいえ。ただの独り言です。はは。…え？　西暦で言うと何年生まれ？　…　　　えっ…。やだ、やだわ。なんかわたくしの年齢疑ってますか？　なんか試されてい　　　るみたいじゃないですかぁ。…え？　試してる？　そんな、はっきりと。…えーえ　　　ーっと…ちょっとど忘れしちゃったんですけど…そうだ、干支なら覚えてますから。　　　ウサギです、はい、…あ、いや、これは去年２９歳のときのだから、今年は…えー　　　今年は…ネーウシトラ…。
　　　　ブツブツ言っている後に、黙ってしまう麗子。
　　　　間が空く。
　　　　突然はじけたように叫ぶ麗子。
麗子：年齢がそんなに大事でしょうか！？　人にとって大事なのは心なんじゃないでしょ　　　うか。心！　わたくしの心、高井さんの心、つまらないことを考えていたら、本当　　　に大切なものを見失ってしまいます。しっかりなさい！　高井さん！　いいですか　　　…わたくしは世界中の誰よりも高井さんのことを愛しています！　それでいいじゃ　　　ないですか。…（優しく）いえ、それがいいんじゃないですか。
　　　　相手の様子をチラっと伺う麗子。
麗子：…か、感動してる…。泣いてる…泣いてるわ…いける、いける…玉の輿…。三高…。
　　　　相手側に見えないように小さなガッツポーズをとる麗子。
　　　　相手が何かを言った様子。優しい笑顔で聞いているが、途中で顔がひきつる。
麗子：…はい？　亡くなったお母さんを思い出した？　昔、お母さんに同じことを言われ　　　た？　そ、そうですか…。（自分に言い聞かせるように）まぁ、きっかけは何でも　　　いいわね。チャンスはチャンス、玉の輿は玉の輿、イエス、ウイ、キャン。
　　　　少し複雑な表情の麗子。さらに相手の言葉に反応する麗子。
麗子：…お母さんが生きてたら、４６歳…。え！？　わたしと同い年じゃない！？
　　　　ハッとなり口を押さえる麗子。
麗子：いえいえ…えーまた独り言です。
　　　　少し間が空く。
　　　　穏やかな表情になっていく麗子。
麗子：さぁ、涙を拭いてください。お見合いで泣いてたら、天国のお母さんに笑われちゃ　　　いますよ。
　　　　微笑む麗子。
麗子：…きっと、優しいお母さんだったんでしょうね。それに、高井さんもお優しい方で　　　すね。そうだ、お庭、散歩しません？　よかったら、お母さんのお話、もっと聞か　　　せてくれますか？　
　　　　相手が何か言ったようで、笑顔で応じる麗子。
　　　　立ち上がって、去っていこうとする麗子。
麗子：あ、その前に。…さきほどの年齢のお話、わたくし、実は…。
　　　　（音響）フェイドイン。
　　　　（照明）暗転、フェイドアウト。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ＥＮＤ

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